東京都の猪瀬直樹知事が昨年の12月に徳州会グループから5000万円の現金を受け取った件が連日話題になっている。
焦点は、金の受け取り方によっては公職選挙法違反となるか、あるいは贈収賄となるかであった。
そしてその決め手となるのは、猪瀬直樹知事が主張している個人による借り入れで有ることを証明する借用書の存在だった。
26日、その借用書が猪瀬直樹知事によって記者会見で公開された。
「都民や都の職員、都議会のみなさんに迷惑を掛けた。心よりおわび申し上げる」
どうだ、借用書はあるぞ、個人的な借金だから問題無い、ということだ。
そして経緯を説明した。
まず昨年の11月6日、徳州会系列である湘南鎌倉総合病院で徳田虎雄氏に面会したという。このときは都知事選出馬の挨拶をしたという。
同月の14日、都内の飲食店で徳田毅氏に会った。
19日になると、徳田毅氏より電話があった。
「議員会館においでいただきたい」
という。
それで20日に猪瀬直樹知事は単身で事務所を訪問。そこで5000万円を受け取り、借用書に署名したという。
但し、借りた現金は、妻の貸金庫に預けたとしている(これは後述するが、運用していない、という伏線だ)。
ただ、公開された借用書はお粗末だった。これだけの大金であるにもかかわらず、印鑑も印紙もない。これについて猪瀬直樹知事は、
「あまり借用書を書いたことがなかった。相手方との信頼関係の問題だと考えていた」
そして今年の9月26日に猪瀬直樹知事の特別秘書が、現金を徳田毅氏に返却した。その後借用書は郵送で返却されたという。
ちなみに猪瀬直樹知事は、この度の件で辞任する意志はないと語った。
「身を粉にしても仕事をきちっとやることが償いかと思っている。都民、国民、東京のために一生懸命働いていきたい」
しかし東京の市民団体は、この金銭の受け渡しについて、公職選挙法違反の疑いがるとする告訴状を東京地検特捜部に送った。
特捜部は事実関係を確認した上で、告訴状の受理を真剣に検討するとしている。
一方、猪瀬直樹知事は、公職選挙法違反については、
「選挙資金ではなく個人的に借りた金だ」
と主張しており、問題が表面化した後で、都の条例に基づいて資産報告書は訂正し、借入金と記載している。
また、別の弁護士グループは、この度の金銭の受け渡しについて、政治資金規正法違反か収賄罪に当たるのではないかとして猪瀬直樹知事を告発することを検討している。
ちょっと整理してみる。疑いは3タイプある。
まず公職選挙法違反について。
もし選挙資金が提供されたのであれば、「選挙運動費用収支報告書」への記載が義務づけられている上、そもそも5000万円が選挙資金であると認定される必要が前提としてある。しかし記載されていなかった。
次に政治資金規正法違反の疑い。
この場合は、5000万円が「政治活動のための借入金」と認定される前提があるが、これが認められたとすると、政治資金規正法により、「政治資金収支報告書」への記載が必要となる。
最後に収賄の可能性がある。
これも疑わしいのだが、要するに徳州会が東京都の許認可が必要な事業を行っていることから疑われている。受け取った5000万円が、徳州会が猪瀬直樹知事あるいは副知事時代の職務に関連しているとみなされれば、収賄になるのだ。
猪瀬直樹知事はあくまで個人的な借金だと主張しているが、本人が述べている経緯の通り、都知事選出馬直前に徳田虎雄氏に会っていることや、そのタイミングで5000万円が渡されたことから、余りに疑わしい。
しかも猪瀬直樹知事の主張は二転三転してしまっている。
受け取った5000万円について、朝日新聞が最初に取材したときは、
「知らない」
と否定していた。しかしその後受け取りが明らかになると、
「資金提供で応援してもらった」
と言っている。
さらにその後、公職選挙法違反の疑いを掛けられると、
「個人の借り入れ。知っていたのは私と妻だけ。選挙の責任者にもいっていない」
と話が変わってくる。
さらに猪瀬直樹知事は、5000万円を受け取ったことについて、
「断るのは失礼だから、とりあえず預かった」
などと言っているが、そもそも猪瀬直樹知事側から1億5000万円が要請されていたことが、知られている。
これは、徳田毅氏が徳田虎雄氏に、
「(猪瀬直樹知事は)1億5000万円必要だ。余ったら返すといっている」
と伝えたとき、病院のスピーカーで伝えられてしまっていた。そのため、多くの病院関係者が聞いてしまっていたらしい。
これに対しての徳田虎雄氏の回答は、
「5000万円でいけ。足がつかないように、議員会館に取りに来させろ」
だったという。
このことについて、猪瀬直樹知事は、
「私から要請したことは100%ない」
と否定している。
さて、今回公開された借用書は、前述の3タイプの疑惑を晴らすために必要なものではある。
しかし徳州会側は、
「借用書は見たことがない」
としている。この借用書は本物だろうか。
また、借用書があってもまだ疑わしい点があるという。
それは、金額がデカイだけに、たとえ返却したとしても、無利子無担保で貸し出されていた場合、猪瀬直樹知事側は年利3〜4%で10ヶ月なら100万円以上の利益が得られる運用資金と見なされた場合だ。
だから猪瀬直樹知事は、「妻の金庫に保管していた」と言っているのか。
その場合は前述の3タイプの内の、収賄に該当する可能性が残る。
さて、真相は如何に。