2013年09月30日

シリアの化学兵器廃棄を義務づける国連安全保障理事会決議は、内戦終結までの道標は示していない

9月27日、国連安全保障理事会はシリアに化学兵器廃棄を義務づける決議を全会一致で採択した。

この決議は8月21日にダマスカス郊外で1400人余りが死亡したとされる毒ガス攻撃に対し、米英仏の3カ国が決議案を策定したものだ。

但し、シリアのアサド政権がこの決議案に応じない場合の即時の措置は盛り込まれなかった。

これは米英仏がこの毒ガス攻撃をアサド政権によるものだと主張したことに対し、ロシアが異議を唱え、反政府勢力こそ毒ガス攻撃を行ったのだと主張することで、即時措置の盛り込みを阻止した形だ。また、シリア批判も盛り込まれることを阻止した。

それでも国連の潘基文事務総長はは語った。

「きょうの歴史的な決議は、久しぶりのシリアに関する明るいニュースだ」

なんとお気楽な発言だろうか。潘基文事務総長の無能さを感じる部分だ。

この安保理採決に先だって、OPCW(化学兵器禁止機関)はシリアの化学兵器廃棄計画を決定した。この決定で、サリンなどの化学兵器の備蓄を、来年半ばまでに全廃する方針を示している。

また、この安保理採決について、シリアのアサド大統領はこれを遵守すると宣言している。29日のことだ。

さて、早速OPCWでは、10月1日に約20人からなる先遣隊をダマスカス入りさせ、政府高官と会合を設ける予定だ。OPCWの当局者は報道陣に対して語っている。

「現時点では、シリア政府から提出された情報を疑う理由はまったくない」

国連総会に出席するためニューヨークを訪問しているシリアのムアレム外相も、NHKの取材に答えている。

「(国連安全保障理事会の決議について)注意深く内容を精査しているが、安保理決議はすべての国が受け入れなければならないものだ」

さらに今後、アサド政権と反政府勢力が国際会議を行うことについては、

「われわれは前提条件なしに参加する用意がある」

と述べ、内戦終結に意欲的であることを訴えている。

ただ、反政府勢力を支援している欧米諸国に対しては、牽制する発言を付け加えている。

「決議を採択した国々にはテロと戦うという責任が生じるはずだ」

これは欧米諸国の矛盾を突いている発言だ。すなわち、反政府勢力を支援していることは、反政府勢力に参加しているアルカイダなどのテロ組織を支援していることにも成ることを示しているのだろう。

シリアの内戦は既に2年以上も続き、10万人もの死者を出していると言われている。そして化学兵器が使われたことを機会に、米国などの軍事介入が検討されるようになった

しかしアサド政権側に立つロシアがシリアの保有する化学兵器を国際管理下に置くことを提案したことで、ひとまず軍事介入を回避することができたのが、この度の安保理採決だ。

そしてOPCWがシリアに査察官チームを派遣し、現地の査察でシリア政府が申告した内容の事実を確認することになった。

しかしシリアは内戦下にある。OPCWは査察官の安全確保については、

「シリア政府に責任がある」

と主張し、シリア治安当局に協力を要請している。

さらにOPCWはシリアに化学兵器に関する追加情報を提出するように要請しており、具体的な廃棄計画については、11月15日までに決める予定だ。

ところでこの度の安保理採決には、停戦や和平交渉に関する内容は含まれていない。そのため、内戦自体を終結させる見通しは立っていない。

現在も内戦は続いており、物価高騰や食料不足に市民生活は窮乏している。電気や水道の確保も困難になってきている。

国連の調査によれば、既に死者は11万人、周辺諸国への難民は200万人、国内避難民は425万人を越えているという。

また、シリア政府が算出した経済損失は150億ドル(約1兆5000億円)を越えると言う。

内戦の優劣も変化している。一時は反体制派が優勢になった時期もあったが、アサド政権側はレバノンのイスラム教シーア派組織であるヒズボラの加勢を受けたり、イランやロシアの支援を受け、現在では優位に立っているとみられている。

実際、アサド大統領は言っている。

「我々が優勢」

しかし一概にそうとも言えないのは、北部や東部では反体制派が支配地域を広げているからだ。従って、どちらが優勢とは判断しにくい状況にある。

米露は和平交渉のための国際会議を提唱しており、アサド政権は参加の意思を示しているが、反体制派、特にシリア国民連合は、アサド大統領の退陣を参加の条件としているため、会議が開催される目処が立てられずにいる。



以下、シリア関連の記事です。

『シリア軍事介入を回避した米ロ合意は、内戦の終結とは別の話だ』(2013/09/16)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/374990936.html

『シリアへの軍事介入は回避されそうなのか』(2013/09/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/374525596.html

『シリアへの米軍事介入を回避させるロシアの提案』(2013/09/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/374466774.html

『シリアへの軍事介入にNATOは参加せず。しかし見せしめは必要だと』(2013/09/03)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373816054.html

『シリアへの軍事介入への米仏と露のせめぎ合い』(2013/09/03)http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373811103.html

『シリア政府が化学兵器を使用した証拠はあるのか? 見切り発車の軍事介入が行われるのか』(2013/08/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373401150.html

『米国によるシリア攻撃が始まるのか』(2013/08/28)
http://newsyomaneba.seesaa.net/

『シリアで毒ガス兵器により1300人以上死亡。しかし誰が使ったのか』(2013/08/22)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/372654267.html

『シリアでサリンを使ったのは反体制派だとロシアが報告』(2013/07/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/368795017.html

『米国がシリアの反体制派への武器供与拡大を決定』(2013/06/14)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/366304428.html

『シリアに対する日本政府の立ち位置』(2013/06/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/365988776.html

『シリア内戦を停止させる国際会議の開催は可能か』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/364050350.html

『シリアの内戦がレバンノンに飛び火する』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/

『シリア・ヒズボラ連合で攻勢をかけるアサド大統領の狙い』(2013/05/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/362493849.html

『国連総会がシリア国民連合を、政権移行の対話者として認める決議を行った』(2013/05/16)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/361570283.html

『イスラエルが内紛中のシリアを空爆する理由』(2013/05/05)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/359067477.html

『(続)シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/26)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357324613.html

『シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357023672.html

『シリアで化学兵器が使われたのか。お互いを非難する体制派と反体制派』(2013/03/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/348363101.html

『シリア反体制派が暫定政府に首相を選出したが…』(2013/03/19)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/347857251.html

『シリアの使ったガスは化学兵器か?態度を変えつつあるロシア。』(2012/12/25)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/309829131.html

『シリア、サリンを準備中か』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305190492.html

『ロシアとトルコ、経済では協力、対シリア外交では距離』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305180076.html

『シリアの砲撃に報復するトルコ。シリアは何故トルコ//砲撃したのか。』(2012/10/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/295414151.html

『シリアは化学兵器を使用するか』(2012/07/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/282860806.html

『シリアで200人規模の虐殺。アサド政権側か、反政府側か。』(2012/07/13)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/280748896.html

『シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる』(2012/06/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277587322.html

『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html

『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html

『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html

『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html

『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html

『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html

『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html

『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html

『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html

『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html

『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html



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