2013年09月03日

シリアへの軍事介入への米仏と露のせめぎ合い

前回の記事で、私はシリアでアサド政権が化学兵器を使用した犯人であるということに多少なりとも懐疑的であると投稿した。

『シリア政府が化学兵器を使用した証拠はあるのか? 見切り発車の軍事介入が行われるのか』(2013/08/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373401150.html

そして英議会では、軍事介入が否決されたが、フランスはやる気満々になっている。

2日、フランス政府はアサド政権が化学兵器を使用したとする仏情報機関による報告書を公表した。といっても、肝心のところは削除された状態であるため、なんとも説得力に欠けるようだ。

その報告書では、アサド政権が1千トン以上の化学兵器(サリンやマスタードガスなど)を貯蔵していることを指摘している。そして、

「反体制派には当時、化学兵器をこのような規模で貯蔵し、使用する能力がなかった」

だから、やったのはアサド政権以外に考えられない、と言うわけだ。しかしこれについては前回の投稿記事でも書いた様に、反体制派も化学兵器を使用する能力を持っているらしいとの報告もなされているのだ。

『シリア政府が化学兵器を使用した証拠はあるのか? 見切り発車の軍事介入が行われるのか』(2013/08/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373401150.html

僅か9ページ程度の報告書には、先日の8月21日に首都ダマスカス郊外で使われた化学兵器について述べている。

「政権側が反体制派部隊に支配されたいくつかの地区に対し、通常の手段と合わせて攻撃を始めた」

決めつけでしか無い。証拠が提示されているわけでは無い。

また、報告書では、現地で撮影された映像を根拠に、1500人程度が死亡したと推定している。これは米国の報告書で1429人が死亡したという数字に近い。

そして報告書が、化学兵器使用の犯人をアサド政権としている根拠は、アサド政権が化学兵器を搭載して飛ばせる最大射程500キロのミサイルを所有していることだという。だから、

「シリア政府以外に実行は不可能だ」

としているが、なんとも説得力がない。化学兵器の使用に射程500キロのミサイルは必須ではないからだ。オウム真理教のサリン事件を思い出せば良い。

そして報告書は予告する。

「ほかの2カ所で4月にも化学兵器が使われたことを確認した」のだから、「再び実行されると確信している」

だから今のうちにたたきのめせ、ということになる。

この報告書を受けて、エロー仏首相は言う。

「この行為は制裁なしではすまされない」

軍事介入への意欲が満々である。

ところで米国が軍事介入に議会承認を求めようとしていることを受けて、フランスでも同様の手続き、つまり投票を行うべきと言う声が上がっているが、エロー仏首相は否定している。

「オランド大統領が決めることだ」

そう、フランスでは、必ずしも議会の承認なしでも大統領が決断すれば、軍事介入できるのだ。

このように、フランスは軍事介入をやるき満々の姿勢を示しているが、これに対してシリアのアサド大統領は、そもそも政権側は化学兵器を使用していないと真っ向から否定している。

「政府軍も展開する場所で(その政府軍が)化学兵器を使用することは理にかなわない」

そして、

「オバマ、オランドの両大統領はこれまで証拠を提示できていない」

と、証拠の提示を求めている。

さらにアサド大統領はフランスに警告する。

「テロリストに金融、軍事支援を行った者はシリア市民の敵だ。フランスの対シリア政策がシリア市民にとり敵対的なら、フランスは市民の敵だ。フランスの国益上、悪影響が及ぶことになる」

それだけではない、とアサド大統領は言う。

「中東は火薬庫であり、炎は近付いている。爆発すれば、(中東全体が)誰もが制御が利かない状況に陥る」

だから、軍事介入は止めるべきだと主張している。

さて、このアサド大統領側を援護しているのがロシアのプーチン大統領だ。プーチン大統領は6日にサンクトペテルブルクで開かれるG20でオバマ大統領に反発する準備をしている。

プーチン大統領は8月31日、ウラジオストクでの記者会見で述べた。

「過去10年間の出来事を思い起こす必要がある。米国は何度、世界のさまざまな地域で武力紛争を主導したか。それでたった一つでも問題が解決しただろうか。アフガニスタンやイラクでパートナー諸国が追求したとされる平和や民主主義は結局実現していない」

ごもっとも。米国は痛いところを突かれている。そして続けた。

「アメリカはまたしても国際的な安全保障システムと国際法の土台を破壊したがっているのか。それでアメリカの国際的地位が高まるはずもない」

そのようなことを知っているからこそ、イギリス議会は否決したのだ、とも付け加えている。

「これらの国でさえ、国益と良識に従う人々、国家主権を重んじる人々がいる」

プーチン大統領が言うだけではない。ロシアは実際に行動を始めた。

すなわち、2日、ロシア連邦議会の上院議長を務めるワレンチナ・マトビエンコ議員はワシントンに議員団を派遣することをプーチン大統領に伝えている。そして米議会が軍事介入を承認しないように運動するというのだ。

「アメリカ議会が最終的にバランスのとれた立場をとり、現在行われている強硬な議論に耳を貸すのではなく、シリアでの武力行使案を支持しないよう願っている」

ワレンチナ・マトビエンコ議員は語っている。

これ以外にもロシアは動いている。

実はロシアはシリア西部タルトスというところにロシアの海軍施設を持っている。そこで米軍の軍事介入に備えて、周辺海域に艦艇を派遣し、地中海には情報収集艦1隻を派遣した。

ロシアは米仏の軍事介入を阻止できるだろうか。




以下、シリア関係記事です。

『シリア政府が化学兵器を使用した証拠はあるのか? 見切り発車の軍事介入が行われるのか』(2013/08/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373401150.html

『米国によるシリア攻撃が始まるのか』(2013/08/28)
http://newsyomaneba.seesaa.net/

『シリアで毒ガス兵器により1300人以上死亡。しかし誰が使ったのか』(2013/08/22)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/372654267.html

『シリアでサリンを使ったのは反体制派だとロシアが報告』(2013/07/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/368795017.html

『米国がシリアの反体制派への武器供与拡大を決定』(2013/06/14)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/366304428.html

『シリアに対する日本政府の立ち位置』(2013/06/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/365988776.html

『シリア内戦を停止させる国際会議の開催は可能か』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/364050350.html

『シリアの内戦がレバンノンに飛び火する』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/

『シリア・ヒズボラ連合で攻勢をかけるアサド大統領の狙い』(2013/05/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/362493849.html

『国連総会がシリア国民連合を、政権移行の対話者として認める決議を行った』(2013/05/16)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/361570283.html

『イスラエルが内紛中のシリアを空爆する理由』(2013/05/05)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/359067477.html

『(続)シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/26)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357324613.html

『シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357023672.html

『シリアで化学兵器が使われたのか。お互いを非難する体制派と反体制派』(2013/03/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/348363101.html

『シリア反体制派が暫定政府に首相を選出したが…』(2013/03/19)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/347857251.html

『シリアの使ったガスは化学兵器か?態度を変えつつあるロシア。』(2012/12/25)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/309829131.html

『シリア、サリンを準備中か』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305190492.html

『ロシアとトルコ、経済では協力、対シリア外交では距離』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305180076.html

『シリアの砲撃に報復するトルコ。シリアは何故トルコ//砲撃したのか。』(2012/10/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/295414151.html

『シリアは化学兵器を使用するか』(2012/07/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/282860806.html

『シリアで200人規模の虐殺。アサド政権側か、反政府側か。』(2012/07/13)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/280748896.html

『シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる』(2012/06/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277587322.html

『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html

『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html

『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html

『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html

『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html

『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html

『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html

『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html

『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html

『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html

『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html




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