6月30日から7月1日に賭けて、エジプトではモルシ大統領の就任1年に合わせて反政府デモが行われている。
デモ隊は首都カイロの大統領宮殿周辺を埋め尽くし、包囲した。タハリール広場には、モルシ大統領退陣を要求して終結した人々が約50万人も終結した。
エジプト全土では、デモへの参加者は1千万人を越えたのではないかとの情報も流れている。
また、カイロや南部アシュート県、ベニスエフ県などでは、反政府勢力と大統領支持派が銃撃戦による衝突を起こしたとの報道も有り、エジプト全土では7人以上が死亡し、600人以上が負傷したとの情報も流れた。
いよいよモルシ大統領就任以来、最大規模の反政府デモになっている模様だ。
デモ参加者は言う。
「ムバラク(前大統領)もひどかったが、モルシもひどい。仕事もガソリンもない」
そしてモルシ大統領の後ろ盾となっているムスリム同胞団の本部も襲撃を受けた。
それでも今のところ、このデモの大半は平和的に行われている。しかし既に銃撃戦が行われている地域があり、死者も出ているという情報が、抗議活動をしている人達を過激にする可能性もある。
軍関係者の情報では、この抗議活動に参加している国民は既に約1400万人に達しているという。この数字は、なんとエジプト国民の6人に1人が参加している計算になるという。また、デモが行われているのは約20箇所以上だ。
各デモの代表者らは呼びかけている。モルシ大統領が辞任するまで、各都市の中央広場を占拠せよ、と。
そしてデモ参加者たちは、先の選挙でムスリム同胞団がエジプト革命を乗っ取ったのであり、権力を独占した上で、イスラム法を国民に押しつけるつもりだ、と主張している。
また、民主的に選ばれたはずのモルシ大統領だが、強権的な政治手法や経済悪化が見えてきたとして、多くの国民たちが「裏切られた」と失望を隠さない。
これに対し、ムスリム同胞団側は、デモがクーデターを起こすために行われているのではないか、と警戒している。
何しろ現在展開されているデモの規模は、「アラブの春」、つまり2011年1月から2月に行われたムバラク独裁政権打倒のデモに匹敵する。
モルシ大統領は厳しい立場にある。しかし退陣する気は今のところ無いようだ。大統領府スポークスマンが30日の記者会見では、
「対話以外の手段はない」
と述べている。
しかし国民の間では、モルシ大統領の失政として、計画停電の頻度の高さやガソリン不足、そしてあらゆる物価の上昇を挙げている。
それに対してモルシ大統領は、自分は有権者の支持を得てエジプトを率いているのだと主張する。大統領府の報道官はテレビでデモの指導者らと話し合う用意があると訴えている。
さて、ここで気になるのは軍の介入があるかどうかだ。
シン国防相は、必要であれば軍の介入もありえるという姿勢を崩してはいない。しかしシン国防相の語った、
「国民の意思を守る」
という言葉は、玉虫色だ。デモを行っている国民からすれば、モルシ大統領辞任を支持しているようにも受け取れるが、モルシ大統領側から見れば、民主的に選ばれた大統領を支持するとも受け取れる。
ただ、抗議活動が暴力的な様相を見せ始めれば、軍は国家の治安維持とう名目で動き出すだろう。そのとき、軍が圧力を加えるのは、デモ隊か、それとも政府側か。
ムバラク前大統領への反発が起きた際は、軍は国民の声に耳を傾けた、という記憶が国民にはあるのではないか。
実際、軍当局と密接なつながりを持つと言われるコメンテーターの、ヘイカル氏は言う。
「軍は常に民衆の意見を支持する。それが示される場所が投票所であっても、他の場所であってもだ」
この言葉を聞いたデモ隊は勢いを増すかもしれない。そしてヘイカル氏の言うとおりのことが起きれば、モルシ大統領は、その圧力に屈する可能性が出てくるだろう。
反体制派はモルシ大統領にムバラク元大統領を重ねてみている。モルシ大統領は民主化を装いながら、実はムバラク政権時代のような政権支配を強化しようとしているのだ、と見ている。
また気になるのはモルシ大統領が「イスラム集団」などアルカイダとつながりがあるイスラム過激派の支援を頼るようになっているという情報だ。実際、革命後に釈放された同組織のメンバー等は、モルシ大統領を守るために武装することを表明もしている。
このようなことは、ますます国民のモルシ大統領への懸念を拡大させるであろう。
結局のところ、国民がモルシ大統領に抱き始めた懸念は、以下の様な順序ではなかったか。
まず、モルシ大統領は就任早々に、大統領の決定や法令が、裁判所には覆せないとする権限強化を行ったこと。これには特に若者達が、強権的だと反発し、このころからデモが始まっている。
次に新しい憲法の制定がムスリム同胞団主導で行われ、それを批判した活動家やジャーナリストが身柄を拘束されるという事態も発生し、これも民主化への逆行だとして批判されている。
また、最近の話だが、6月には南部ルクソールの知事に、モルシ大統領はイスラム原理主義組織の参加にある政党の党員を指名した。これが世俗主義者からの反発を招いた。(結果、その知事は1週間程度で辞任)
そしてこの1年を振り返ると、停電率の高さ、ガソリン不足、物価上昇など、経済政策の不手際が目立ち、いよいよ、モルシ大統領への辞任要求が高まっているのだ。
これが今起きているエジプトでのデモの原因ではないだろうか。
以下、エジプト関係の記事(新しい順)です。
『分裂が顕在化するエジプト』(2012/11/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/304087623.html
『クリントン国務長官とエジプトのモルシ大統領と会談。まずはお互いの思惑は一致
』(2012/07/15)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/281136899.html
『エジプト新大統領モルシー氏は、ぬかるみへの第一歩を踏み出したかもしれない。』(2012/06/25)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277224870.html
『エジプト大統領選の結果は、どっちに転んでも新たな火種だ』(2012/06/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277009953.html
『エジプトのムバラク大統領に死刑求刑。軍部への不満を反らす見せしめか』(2012/01/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244591656.html
『エジプト騒乱の続章の幕開けか。暫定統治の軍と、イスラム原理主義の衝突』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236099759.html
『エジプトの、新たな混乱が始まるのか。』(2011/02/12)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/185542674.html
『ムバラク大統領は、権力亡者となり暴走しているのか。後ろ盾の米国にも読めず。』(2011/02/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/185457860.html
『デモの長期化はムバラクに有利か、反ムバラクに有利か』(2011/02/05)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/184439695.html
『ムバラク大統領の退陣は、新たな対立を産む可能性がある』(2011/02/02)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183849084.html
『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第五部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183236111.html
『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第四部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183159468.html
『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第三部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183150487.html
『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第二部。』(2011/01/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183086820.html
『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第一部。』(2011/01/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183082938.html