26日、スペイン政府はEUと約束していた財政再建時期を2014年から2016年に延期した。そもそも2014年に財政再建できると予想していたこと自体が不思議だが、この話は具体的には、財政赤字の対GDP比を3%にする事が目標だった。ところがどうやら6.3%程度になりそうだ、ということで、全く話にならない状況であることに、今更気付いた。
そこで、対GDP比3%を達成する目標期限を2年先に延ばしたのだ。まぁ、それでも無理だろうけど。
なぜ無理かというと、スペイン政府がそのために行う政策が、「若者の起業を容易にする」こと、「中小企業向けの資金調達の支援」、「若者の職業訓練」、「鉄道や空港・港湾の民営化」とどれもこれも供給力を上げるばかりで、需要が全く創造されていないからだ。
したがって、若者は起業しても即倒産するし、中小企業に資金を調達しても投資しないし、若者の職業訓練を行っても就職先が無いし、鉄道や空港・港湾を民営化しても赤字になるし、という結末が待っていることだろう。
相変わらず主流派経済学(新自由主義とか新古典派とか)は、宗教から科学に脱皮できないようだ。経済学はケインズの頃より退化しているとしか思えない。
ただ、少しばかり知恵を付けたかと思えるのは、緊縮財政のペースを緩めるという方針を出していることだ。これは評価出来るのではないだろうか。
つまり、財政健全化の目標を延期することで(といってもたったの2年だが)、これまで何が何でも緊縮財政最優先だったのが、成長路線を取り込もう(取り込み方は間違っているが)という方向転換を始めたわけだ。
これがEUの他国に影響を与えるかもしれない。そうなると、緊縮財政至上主義のドイツは嫌がるだろう。
ただ、スペインが財政健全化の目標期限を延期することは、EUの欧州委員会の同意が必要になる。とはいえ、欧州委員会もなにやら方針が変わりつつ有り、この度のスペインの要請に対して、
「期限延長は現時点での欧州委の分析と合致している」
などと同意しているようだ。ただ、正式な結論は5月29日に判断される。
ということでスペインのデギンドス経済相は言う。
「14年は回復の年だ」
どうかな。私は今のままでは無理だと思っている。もっと大胆な方向転換が必要だろう。
それにしてもスペインの緊縮財政政策の失敗は見事に数字に出てしまった。
25日にスペイン国家統計局が発表した1〜3月期の失業率は、いよいよ27.16%に達してしまった過去最悪である。
しかもその実態はもっとひどく、25歳未満に限れば、失業率は57.22%と、2人に1人以上失業してしまっているのだ。
そして成長率は7四半期連続のマイナスに成る見込みだ。
これがドイツが主導している緊縮財政至上主義という宗教の実験結果である。そろそろメルケルも、自分の過ちに気付くべきころだと思うが、なかなかどうして、頑固な狂信者だ。
最近、ドイツよりも一足先に緊縮財政至上主義から脱しつつあるIMFにも、まだ限界はある。IMFのラガルド専務理事はスペインの財政健全化目標延期について、一定の同意はしている。
「景気回復と雇用創出を進めながら、財政規律を守るスペイン政府の立場を強く支持する」
しかし、前述したように、スペインがせっかく財政緊縮至上主義から方向転換したにもかかわらず、まだ政策としては新自由主義的な規制緩和至上主義から抜け出せないでいる。
これは日本の産業競争力会議と同じだ。彼らもなんでも緩和、自由競争があれば経済が成長すると信じているやっかいな連中だ。
一方、スペインのサンタマリア副首相はやや楽観的だ。
「2012年に行った措置で、国民に新たな努力をお願いしなくても良い状況となった」
これは恐らく増税や歳出削減を行わないということだろうか。また、サンタマリア副首相は、
「ユーロ圏経済がゆるやかに回復し、政府の借り入れコストがさらに低下することで恩恵を受ける可能性がある」
とも期待しているようだ。
それにしても、と話を戻すがスペインの失業率は凄まじい。この27.16%というのは、人数にすると600万人超えである。そしてこの数は、EU内の失業者の5分の1はスペインに居る、ということらしい。
しかもまだ増えそうだ。BNPパリバのユーロ圏担当エコノミスト、リカルド・サントス氏は予想する。
「景気後退が緩やかになりつつあることを考えると、雇用悪化のペースは驚きだ。年末の失業率は28%になっているかもしれない」
当たるだろう。
さて、アベノミクスに沸いている日本だが、産業競争力会議という狂信者集団が、景気回復の障害になるだろう。彼らが居る限り、景気回復はむずかしいと思われる。何しろ首相官邸の定義がこれだ。
「日本経済再生本部の下、我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議するため、産業競争力会議(以下「会議」という。)を開催する。」
まぁ、竹中平蔵を初めとし、後は大企業の会長やら社長といった勝ち組の集まりだ。国民の利益など考えていない。ひたすら勝ち組企業が、より儲けて資本家や経営陣が儲けることしか思いつかない。
要するに、規制を緩和し、競争を激しくすることで、失業率を高め、給料をグローバルに最適化し(つまり世界で競争力のある世界最低の給料に近づける)、国民を貧しくすることで、勝ち組企業はより儲ける、という発想しか出てこないだろう。
本当にやっかいな連中なのだ。そしてついには「労働市場の自由化」が大事などと言い出すしまつだ。
これ、企業側の理論であり、国益ではない。彼らの悪質さは、以下の主張である。
「正社員を解雇出来にくいような規制があるから雇用が増えない。首切りが簡単になれば、企業は安心して人を雇えるので、その結果失業率が下がるのだ。」
バカだ。いや、どうなるかわかった上で言っているのではあるまいか。悪魔に魂を売った連中の発想だ。
首を切られた人は、次の仕事をどうやって探すのだ?
この問いに、彼らは答える。
「競争力の無い企業はどんどん人を首にして合理化を図り、解雇された人は、成長産業に吸収され、経済が活性化する。」
深刻なバカどもだ。
まず、成長産業が無い、もしくは限られている。失業した労働者が、その限られた成長産業で吸収できるはずがないし、そもそも業種が異なれば雇われないだろう。
例えば、自動車工場で部品の取り付けをしていた労働者が解雇されても、すぐにIT企業のプログラマーとして雇われる、ということがあるだろうか。
素朴に考えても、ばかげていることが分かる。
また、産業競争力会議の連中は言う。
「労働市場の規制を取っ払えば、市場原理により、失業者は消える。」
もはや悪魔の発想だ。
要するに需要と供給の関係で、失業者が増えれば、供給が多いのだから、賃金が下がり、賃金が下がれば、企業はより多くの労働者を雇えるという単純な主張だ。
それではどんどん人々は貧しくなり、デフレ脱却など夢の又夢となってしまう。
そもそも産業競争力会議の連中が言うような成長産業があれば、それこそ市場原理で賃金が上昇していなければならない。
例えばスペインは、2010年に正規社員の解雇を容易にするという労働市場の流動性を高める政策を行った。
その結果、見事に企業は解雇しまくり、失業者が巷に溢れ、この度の最悪の失業率を達成したのだ。
このような現実からも学べない産業競争力会議は、日本経済の破壊者になるであろう。