23日、パナソニックがノートパソコン向けなどの民生用リチウムイオン電池事業で、国内の600人程度の人員削減を検討していることが分かった。
600人になれば、これは同事業の2割程度に当たる。
パナソニックのリチウムイオン電池事業は、サムスン電子など韓国勢との価格競争で採算が悪化していた。これを人員削減で改善し、同時に生産体制を中国にシフトする対応を行う。
一方、国内では、まだ成長が期待されている車載用リチウムイオン電池に重点を置くことで、収益力を回復させたいとしている。
目指しているのは、2016年3月期までに全事業の黒字化である。
とはいえ、人員削減は避け避けられず、2013年度中に希望退職を実施する見込みで、近日中に労働組合に協議を申し入れるとしている。
パナソニックのリチウムイオン電池事業は売り上げ高が3000億円弱と推定されており、その場合は200億円前後の営業赤字が出ているらしい。
2012年には世界シェアでサムスングループに抜かれて2位に転落した。2位でも赤字という厳しい競争が繰り広げられていた。ちなみに実用化で先行していたと言われるソニーは4位だったが、同社もやはり事業の売却を検討中だという。
もはやこの分野はひたすら価格競争の蟻地獄状態であるため、それよりは付加価値の高く成長期待がある車載用電池事業にシフトする企業が多くなるとみられている。
ただ、パナソニックでは、この車載用電池においても、従来の一貫生産路線は見直し、海外からの部材調達比率を2016年3月期までに5割程度を目標に高めるという。
また、同時期までに設備投資額を前期までの4分の1の水準にまで下げる。
ところで、改良が期待されてきたリチウムイオン電池だが、世界的にもコストと安全性から、開発が見直される動きが出てきている。
例えば米ゼネラル・モーターズの電気自動車(シボレー・ボルト)やトヨタのハイブリッド車(プリウス)の開発を手がけた元エンジニアが参加している米エナジー・パワー・システムズでは、2年ほど前から鉛蓄電池の改良を進めてきた。
鉛蓄電池は歴史が古い技術だが、最新技術であったリチウムイオン電池が最近相次いだトラブルの改善はコストが掛かると判断されたため、この鉛蓄電池の改良が選択肢として浮上したのだ。
リチウムイオン電池の相次ぐトラブルの中でもボーイング787型機2機での発煙や火災は、特に悪印象を残した。
また、リチウムイオン電池は既に、高コスト、技術の複雑さ、安全性が険されていたため、技術革新が進まなくなっていたのだ。そのため、既にリチウムイオン電池の優位性は薄れたと判断するエンジニアが増えていた。
ローレンス・バークリー・ナショナル・ラボラトリーのリチウムイオン電池の専門家、フレッド・シュラクター氏はリチウムイオン電池について言う。
「これまでに有能な人々が10年間もこの技術に取り組んできが、だれも新しい電池に近づいていないのさ」
一方、リチウムイオン電池はまだまだ改善の余地があるとしている人達も居る。例えばボーイング、テスラ・モーターズ、ゼネラル・モーターズなどは、リチウムイオン電池の安全な製品の製造は可能だとしている。
また、電気自動車用の充電器を製造するEVグリッドの電池技術者のトム・ゲージ氏も言う。
「リチウムイオン電池は他の技術に比べるといくらか手なずけるのが難しいが、現在手に入る最良の技術であり、今後の改善に自信を持っている」
しかしトヨタなどは、電池技術者のチームに対して、リチウムイオン電池に変わる技術を探す様に命じている。
トヨタの広報担当者、ジョン・ハンソン氏は言う。
「リチウムイオン電池によって大量生産が可能になるとは考えていない。もっと大きな飛躍的進歩が必要で、たぶん電池化学の他の分野に向かうことになるだろう」
プリウスのニッケル水素電池の開発に関与したエナジー・パワー・システムズの創設者であるサブハシュ・ダール氏は言う。
「リチウムイオン電池は約束されていた改善が実現していないのだ。」
また、同社のシニア・エンジニアリング・マネジャーであるジョッシュ・ペーン氏は、シボレー・ボルトがリチウムイオン電池の当初のトラブルを改善したではないか、という事に対して開発に関わった者として語っている。
「ボルトのリチウムは、利用期間を通じて600個のシールが必要で、そうでないと破滅的な不具合が生じる」
そしてトラブルが続いた航空業界はリチウムイオン電池に懐疑的になっている。実際、ボーイングのライバルであるエアバスでは、次世代旅客機であるA350でのリチウムイオン電池の導入を見送った。
サムスンとの価格競争がなくても、パナソニックは、リチウムイオン電池事業の見直しをせねばならなかったかもしれない。
となると、今後重点的に投資するという車載用リチウム電池も大丈夫なのか? と心配になってくる。