米携帯電話会社スプリント・ネクステルの買収を巡って、ソフトバンクと米衛星放送サービス会社ディッシュ・ネットワークの買収合戦が行われている。
スプリント・ネクステルの4番手の株主であるヘッジファンドを運用する著名投資家のジョン・ポールソン氏は、ディッシュ・ネットワークによる買収の方が魅力的だと言う。
「ディッシュはスプリントの株主にとってより価値がある提案をしている。また、周波数帯域や、1400万人の加入者、コスト・売上高の点での相乗効果といった側面にも貢献することになる」
15日、ディッシュ・ネットワークは、スプリント・ネクステルの株式70%に対して、255億ドルでの買収を提案した。これはソフトバンクが提案している201億ドルに対抗した額だ。
しかしソフトバンク側は落ち着いている。ソフトバンクは、スプリント・ネクステルの買収は条件を変えずに(つまり201億ドルのままで)7月1日には買収が完了する見込みであるとの見解を発表している。
また、ソフトバンク側はディッシュ・ネットワークがより条件の良い額で買収提案をしていることに対しして
「ディッシュの提案は、前提条件が非常に多く準備段階の内容。当社とスプリントの取引はすでに必要な承認を得られる段階にきており、7月1日には完了する見込みだ」
と指摘した。だから予定通りソフトバンクによる買収が完了するとしている。たしかにFCC(米連邦通信委員会)による買収審査は順調に進んでいるという。
しかし当のスプリント・ネクステルでは、ディッシュからの提案について、
「取締役会で慎重に検討する」
と揺れ動いている。
つまりは、まだどう転ぶか分からない状況ということだ。そのため、ソフトバンクの株価も上下しており、定まらない。
ただ、スプリント・ネクステルの株主は、88%以上が機関投資家だ。彼らがより条件の良い方を選択するようにスプリント・ネクステルの経営陣に圧力を掛ける可能性もある。
そうなると、世界第3位の携帯電話事業者を狙うソフトバンクの見込みが狂うこともあり得る。
ただ、ソフトバンク側は、資金調達に余裕を見せている。昨年の基本合意による201億ドルについては、契約時に1ドル=82円までの為替ヘッジを設定している。そのため、実際の調達額は日本円で1兆6500億円に留まる。
しかも銀行団からはこの額1兆6500億円の短期借入枠を得ているが、今年の3月には社債の発行で3700億円も調達している。そのため、借入枠は1兆2800億円に圧縮できている。さらに現在1940億円相当の社債発行も決めているというから、資金にゆとりがある。
しかし、ソフトバンク側が余裕を見せているもう一つの理由は、買収に失敗しても約40億ドル(約3900億円)もの利益が転がり込んでくる仕掛けがあるからだとみられている。
どういうカラクリか。
まず、6ヶ月前の合併協定で、スプリント・ネクステルはソフトバンクとの買収合意契約を破棄する場合は、違約金6億ドルをソフトバンクに支払うことになっている。
二つ目は、既にソフトバンクはスプリント・ネクステルの転換社債に31億ドル投入している。この転換社債は、1株当たり5.25ドルで株式に転換できるというものだ。もしディッシュ・ネットワークの1株当たり7ドルの買収案が受諾されると、ソフトバンクの転換できる株式は約41億ドルになり、差額の約10億ドルの利益が得られる。(31億÷5.25ドル×7ドル=約41億という計算)
三つ目は、ソフトバンクは買収完了時に株主に支払う残りの170億ドルは、前述した様に1ドル=82円20銭で先物ヘッジしている。現在は円安で例えば1ドル=97円86銭とすると、為替差益で27億ドルほどの含み益が出る。(170億ドルが1兆3974億円だったのが、円安で1兆6636億円以上になるから)
で、結局、
6億+10億+27億=43億ドルの儲け
となる。(計算間違いしているかもしれないけど…。)
とはいえ、ソフトバンクとしてはやはり買収を成功させたい。一時的な儲けより、新たな市場が欲しいからだ。既に日本市場は飽和状態とも言える。そして孫正義社長には、世界最大の携帯電話会社を手に入れる、という野望があるらしいからだ。
だから市場関係社は、いざとなればソフトバンクはまだ買収条件を甘くすることができると見ている。既に見た様に、資金の余裕もある。
いや、前述した以外にも、現金で約100億ドルを保有しており、さらに四半期毎に生み出されているキャッシュフローも潤沢だ。その上、日本の超低金利は、資金調達に有利だ。
ただ、同時に市場関係社は、ソフトバンクが買収条件をより寛大なものにした場合、財務負担を高める為、株価が下がる可能性を見極めようとしている。
とはいえ、買収を諦めれば前述通りの利益が入り、株価は上がるだろう。
ええい、いったいどっちに転ぶんだ、とやきもきしているに違いない。
ただ、ここで孫正義社長の性格を考慮すると、やはり何が何でも買収したいと考えているかもしれない。彼は2006年に携帯電話事業に参入すると宣言している。
「国内携帯電話3位のソフトバンクを10年以内に最大手のNTTドコモを超える規模にする」
そのためには、スプリント・ネクステルを買収せねばならない。
この買収劇、ソフトバンクが成功すれば、日本企業による海外企業の買収としては最大規模となる。そういうことを孫正義社長は好むだろう。
さて、結末は如何に。