ちょっと信じられないが、日銀が大きく方向を変えた。貧乏神の白川方明前総裁から黒田東彦総裁に変わって初めてとなる金融政策決定会合が4日の今日行われた。
その結果、日銀が本格的な量的・質的金融緩和に舵を切ったのだ。つまり、世の中に金が供給される。そのために国債などの資産を日銀が買い入れるわけだ。日銀は通貨発行権を持っているが、実は担保が無ければ発行できない。つまり、何かを買い入れることで通貨を発行できる。(その点、政府は貨幣を無担保で発行する権利を持つ)
このようにして市場に資金供給量を増やすことを、マネタリーベースを増やすと言う。今回の目標は、2年間でマネタリーベースを2倍(約270兆円。昨年末は138兆円)に増やし、物価上昇率2%の実現を目指すという。ちなみにリーマンショック後に欧米は約3倍にしているから、決して2倍が大きいとは言えない。
さらに日銀は、デフレ脱却のスピード感を出すために、長期国債の他、EFT(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)といったハイリスクな資産の購入も拡大することにした。ちなみに長期国債は月額約4兆円から7兆円強の買い入れに増加し、EFTは年間約1兆円、J-REITは約300億円買い増すとしている。
その意気込みを表すため、決定会合では目標インフレ率の達成時期にも触れた。
「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」
そう宣言した。以前は「実質的なゼロ金利政策と金融資産の買い入れなどの措置を、それぞれ必要と判断される時点まで継続する」としていたので、より強く期限を意識した表現になっている。(ただ、この書き換えだけは木内登英審議委員一人が反対した)
「量・質ともに次元の違う金融緩和を行う」
資金が市場に流れ込めば、金利が下がり、融資が容易になることが見込める。また、金利の低下は、金の流動性を高めるだろう(預貯金の利子より投資のリターンが高まる)。要は金回りが良くなる。
しかも意外だったのは、上記決定が全員(9人)一致だという。予想では、5人は反対するだろう、とも見られていたからだ。アベノミクスの勢いに押された言うことだろうか。
また期待されつつも実現は危ぶまれた「銀行券ルール」という日銀の国債保有残高に上限を設けるというばかばかしいルールも、廃止までいたらなかったものの、「一時停止」と決まった。
以上の決定内容について、会合に同席していた甘利明経済再生相は非常に高く評価した。
「マネタリーベースを2年間でほぼ2倍にする、買い入れる長期国債の平均残存年数を今までの平均3年から7年にすることなど、おそらく大方の予想を超える大胆な金融緩和策だ」
とした上で、
「(日銀は)非常に変わった。決定が全会一致で行われ、姿勢が大きく物価安定目標の実現に向けて舵を切った」
だから、
「(100点満点で)110点ぐらいあげたい」
と評価した。
さて、甘利明経済再生相の評価とは別に、市場はどう評価したか。何しろ市場の反応は機敏だ。
4日の東京株式市場は日経平均が1万2634円54銭で取引を終えている。これは前日より272円34銭高い。2.20%の値上がりだ。
実は取引開始後は一旦値下がりしていた。おそらくこれは米国経済の先行き警戒感からと言われている。しかし日銀の金融政策決定会合の結果が分かると、すぐに上昇し始めたのだ。その結果、一旦下がっていたので1日の値動きとしては558円になっている。
市場関係者は言う。
「日銀が4日の金融政策決定会合で打ち出した金融緩和策は、市場の予想を上回る強力な内容だと受け止められ、一気に買い注文が広がる展開になった」
その結果、不動産、金融、自動車、ハイテク、輸出関連などが買われた。
為替市場も反応し、1ドル94円台まで円安に進んだ。何しろこれほどの決定は市場の予想を超えていたようだ。これ、恐らく100円までは下がるのは時間の問題か。
例えば東洋証券・投資調査部ストラテジストの土田祐也氏は言う。
「緩和内容は想定していたよりも強めな印象だ。長期国債の買い入れ対象を40年債を含む全ゾーンに設定したほか、EFTの保有額を2年間で2倍に拡大する方針を示したことなどが評価され、市場の期待に応えた格好だ。新体制となって間もない現時点では良好な内容と言えるだろう」
いよいよアベノミクスが具体的に始まった。次は黒田東彦日銀総裁がかねてから言っている様に、金融緩和だけではだめだ、政府の需要創出が必要だ、ということになる。
つまり日銀の準備は整った。次は政府の財政出動だ。いくら金が供給されても、市場を巡らねば意味が無いし、需要がなければ投資や消費に向かわない。そしてなにより、雇用が拡大しないからだ。
アベノミクスは成功するのだろうか。世界が注目している。