2013年03月18日

キプロスのATMに人々が殺到し、ユーロが下がり、FX投資家もなかなかに忙しいだろう

今回取り上げるキプロスは、日本での正式名称はキプロス共和国の方だ。紛らわしいのは、キプロス島が分断されており、島の北部(の約37%)は北キプロス・トルコ共和国となっている。今回はこちらではなく、南側のキプロス共和国のことになる。

キプロスは以前はギリシャ系住民とトルコ系住民がいたが、分断された後のキプロス共和国はほぼギリシャ系の単一民族らしい。

ということで、以降キプロスと表記した場合は、このキプロス共和国を示す。

さて、この度のATM殺到のニュースを読む前に、キプロスについて、もう少し予備知識をなぞっておきたい。

主要産業は観光業だ。なにしろキプロスの労働人口の62%ほどが観光業を含めたサービス業従事者だという。また、GDPのなんと70%が観光業によるものだ。これは歪すぎるほど観光業依存体質ではないか。

逆に言うと、それほど観光以外の産業が無い。資源も食料さえも輸入に依存しており、その結果常に輸入超過となっており、それが財政を厳しい状態に追い込む体質を持っていたと言える。

ちなみに水も不足しており、海水淡水化プラントを稼働させることでなんとか安定させているという状況だ。

キプロスは2004年にEU加盟を果たしたが、単一通貨の利点も生かした観光業が期待されていた。また、それに伴い、別荘地としての人気もあったため、EU加盟後は不動産投資も盛んになったようだ。

もう一つの主要産業と呼べるものに金融業がある。タックスヘイブンとして、例えば欧州のどこかの国がロシアなどへの投資を行う際も、一旦キプロスに会社を設け、それを経由して行うといった投資拠点としての活用が盛んに行われていた。

その結果、キプロスには会計士や弁護士の資格保有者が多いと言われている。

ところで日本人としてやや親近感をもてるとすれば、キプロスでは自動車が左側通行であることか。だから右ハンドルである。その結果、日本からの中古車がかなり大量に輸入されている。

さて、そのキプロスの経済状況が余りよろしくなかった。どうもEUに加盟したころから右下がりになった気もするが、景気後退が始まったのは2009年からだと一般的には言われている。

なぜか。元々生産性が低く、輸入超過だったので、EUに加盟して為替変動による緩衝材を失った以上、こうなることは見えていたようなものだが、一般的にはいくつかの段階を経て景気後退に陥ったと言われている。

まず、大きく生産性が下がったのが、2011年のマリ海軍基地の爆破事故だったという。このとき、国内最大のヴァシリコス発電所が破損した。その結果、電力供給がままならなくなり、生産活動が停滞し、成長率が下がったというのだ。

この後、同爆発事故の影響で、キプロスの各銀行が大量保有していたギリシャ国債が債権交換されてしまい、金融・財政が深刻な状況、つまり資本不足に陥った。

当然、キプロス政府はこれを支援し、銀行の資本増強や財政再建を行うが、2012年の6月になると、いよいよ首が回らなくなり、EUとIMFに支援を要請するにいたった。

と、ようやく今回のニュースを読む準備ができた。そう、キプロスはEUに支援を要請したのだった。

そして先週のことへと、話は一気に飛ぶ。

ユーロ圏財務相会合では、キプロスに100億ユーロ(130億ドル)を支援することを決定した。但し、これに付けられた条件が市場を驚かせた。

その条件とは、キプロスに支援する代わりに、キプロスで10万ユーロ超の預金に対し、その預金額の9.9%の課徴金を課すというのだ。それだけではない、10万ユーロ以下の預金にも、6.7%の課徴金を課すという。

これまでユーロ圏加盟国の支援策はいくつも行われているが、この度の措置は前例が無かった。

さぁ、週が明けると、市場はすぐに反応した。ユーロは円に対して週明けの早朝から121.58円まで下げた。

市場関係者の不安はこういうことだ。関係者は言う。

「ユーロ圏がキプロスにこういうことを要求したことで、『周辺国』にも同様なことが要求されるのではないかという『いけない連想』を呼んでいる」

まだ決定したわけではないが、市場は予想で動く。FX投資家は忙しいだろう。市場から目が離せない。

何しろキプロスでは、当然預金流出が始まる可能性が高いからだ(いや、既にはじまっているようだ)。

また、肝心のキプロス政府は、まだユーロ圏財務相会合の要求をのんでいない。調整中だ。ただ、飲まざるを得ないだろうと見られてはいる。

微妙なのは、キプロスのアナスタシアディス大統領が率いるDISY(与党民主連合)は、実は過半数を確保していない。つまり、ユーロ圏財務相会合の要求を飲むには、他党の合意を得ねばならない。すでに最大野党であるAKEL(労働人民進歩党)は反対の姿勢だ。

だからFX投資家は気が抜けない。きっとニュースに釘付けだ。

いや株のトレーダーも気が抜けない。今日の東京市場では、キプロスだけでなく、他の財政赤字国からの予算流出も懸念されたため、主力輸出株や金融、鉄鋼などは売りが目立ち、それに引きずられて寄りつきから大幅安になってしまった。

市場は敏感だ。

いや、それ以上に慌てているのは、当のキプロスの預金者達だろう。案の定、キプロスでは預金者が現金を引き出すためにATMに殺到した。そのため、一部のATMでは紙幣が底を突いてしまい、さらなる混乱を招いている。

キプロス政府はこの混乱を鎮めるためにも少額預金者への負担を軽減すべくユーロ圏と再協議にはいったが、混乱は収まらないだろう。

このままでは、銀行から現生が無くなる。そこでついには19日以降は銀行を休業させるという案まででている(18日は初めから銀行の休業日)。

ちなみに政府はユーロ圏財務相会合の要求への回答を急いでおり、間に合えば19日の銀行営業開始前に預金者の口座から課徴金を引き落としたい考えだ。

実は既にキプロス政府はオンラインでの多額の送金を停止するなどの手を打っている。これは課徴金逃れを防ぐためだ。預金者は踏んだり蹴ったりだ。暴動が起きるのではないか?

いや、実は慌てているのはキプロスの預金者だけではない。前述したとおり、キプロスの銀行には他国の口座も多くあるのだ。特に旧宗主国の英国や近所のギリシャ、そしてロシア企業もその法人税の低さで多く進出しているのだ。

これらの国々の口座も影響を受けるだろう。

さらに日本にも影響は出ている。この度の金融支援条件が、イタリアやスペインなどにも適応されるのではないか、という憶測が広まった。その結果、リスクが低い資産として、円に買いが集まってしまったのだ。

そのため、円が上昇した。ただ、それを受けた特に個人投資家などが慌てて円を売り、ドルを買ったため、円の上値は抑えられた。そして再び円安基調に戻ったようだ。

さて、大変な状況になっているキプロスだが、悪い話ばかりではないので投資家はさらに注意が必要となる。

実はキプロス政府の発表によると、同国のEEZ内ブロック12に埋蔵量が5兆〜8兆立方フィートと見込まれる天然ガスが存在するというのだ。既に開発が進められており、さらに他の5区画についても、今年の1月、2月には、多国籍企業との掘削権に関する契約が結ばれている。

この天然ガスの掘削が開始されれば、キプロスの経済状況は変わってくるだろう。



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