2013年02月09日

市場原理主義が電力コストを下げることができるのか

8日、経済産業省は電力システム改革の報告書をまとめた。柱は電力の「小売り全面自由化」と「発送電分離」となる。

小売り全面自由化は、これまで電力会社が地域独占していた家庭向け電力販売を解禁するもので、3年後をめざす。

また、発送電分離は電力会社から送電部門を切り離すというもので、こちらは5〜7年後を目標にするという。

以上を柱とした方向書に沿い、経済産業省は法改正を目指すことになり、これまでの電力会社による地域独占体制が崩れる可能性がでてきた。

所謂、電力供給システムの改革が目指されるということだ。

改革は三段階で進められるという。

第一段階では、各地域の電力会社の垣根を越えた送配電網を効率的に活用するために、「広域系統運用機関」というものを2015年に設立することを目指す。

第二段階では、電力の小売りを全面自由化することを目指し、これは2016年が目標とされる。すぐだ。例えばこれまでは一般家庭やコンビニなどには大手電力会社しか電力を販売できなかった。これが解禁され、利用者は自由に電力会社を選べるようになるとする。

第三段階では、いよいよ発送電分離を行う。これが2018〜2020年を目標とするから、それほど遠い先の話では無い。

ここで期待されているのは、地域独占や「総括原価方式」という特殊な販売体型がが認められてきた電力供給の仕組みに市場原理を持ち込むことができ、料金やサービスが向上し、消費者のメリットが出てくるという目論見だ。

果たしてそうか。

一応経済産業省は慎重に事を運ぶとしている。急激な全面自由化を急げば、単に供給体制の規模が大きい従来の大手電力会社が圧倒的な優位を保っているためだ。

そこで、発送電分離などの公正な競争環境が整うまでは、大手電力会社の現在の電力料金制度を併存させるとしている。

そして公正な競争環境が揃ったと判断できたら、悪名高い「総括原価方式」を廃止する事になる。

「総括原価方式」とは、現在の電力料金の販売価格を決定している方式だ。通常、商品の価格は、需要と供給の妥協点で決まるとされている。つまり、販売可能価格が先に目標として決められ、それに合わせてコストを決めていく方式だ。

例えばあるスペックの自動車が市場で受け入れられるには、200万円で販売しなければ他社との競争に勝てないし、消費者にも受け入れられない、と判断すれば、メーカーは200万円で販売できるための製造コストや販売コストを逆算して詰めていく。

また、牛丼が1杯300円を超えたら、お話にならない、という市場に参入するためには、300円でも利益が出る仕組みを構築せねばならない。

ここに市場原理の圧力による企業努力が要請されるわけだ。

しかし電力料金は異なる。「総括原価方式」とは、単純にかかった原価を積み重ねて、最後に一定の利益を乗せた価格を販売価格にするというものだ。

これは楽だ。掛かった分に利益を上乗せするだけだから、コストダウンの必要性も経営の合理化の必要性も無い。極端な話、「もっと儲けたいな」と思ったら、乗せる利益を増やせば良いだけだからだ。

なぜ、このような総括原価方式が成り立っているかというと、地域独占が認められる電力販売については、市場原理という圧力が無いからだ。だから、好きなだけ消費者に費用を負担させることが出来てしまう。

そのような既存大手電力会社の殿様商売的な体質を改善させ、電力販売にも市場原理を導入しようというのが、この度の電力システム改革の報告書が目指す物になっている。

しかしそうはいっても、例えば発電業に新規参入する際、送配電のインフラを利用するには、既存の大手電量会社から借りる必要がある。ここで、使用料を上げられてしまえば、新規参入発電業者は、圧倒的に不利となる。お話にならない。

だから、送配電網を既存の電力会社から分離し、別会社にすることで、送配電コストに関しては公平にしようというのが「法的分離」だ。

経済産業省はこの電気事業法改正案を今国会に提出する予定だ。

茂木敏充経産相が専門委で表明した。

「改革は大胆に、スケジュールは現実的に」

ただ、今国会に提出される改正案には発送電分離は本則に書かずに、付則にその方式や法整備の時期を記す意向だ。

一方、この法改正案について、電力会社大手10社で作られる電気事業連合会は反対する意見書を出した。

つまり、発送電分離に反対するということだ。これは、技術的な課題の検証が行われていないことや、電力安定供給を損なってしまう可能性について言及し、

「どの程度の時間を要するかを見極めるのは困難」

だから、反対である、という主旨らしい。そして、

「経営に多大な影響があり、ひいては安定供給にも影響が出る」

との懸念を表明した。一見、既得権益を守らんが為だけの発言に思えるが、実は実例があった。

実例とは、電力自由化によって、過当競争が発生し、利益獲得のための経費削減のために投資を怠る事態が発生して電力の安定供給ができなくなるというものだ。

これは例えば、1990年代の後半に、米カリフォルニア州が電力自由化を行った際に発生した。発電事業者が何をしたかというと、利益獲得競争のために、投資を怠っただけでなく、なんと価格を維持するために意図的に発電量を減らすことで供給力を抑えてしまったのだ。

その結果、大規模停電が発生する事態となった。

また、発送電分離が本当に電力料金の値下げを促すのか、という疑問も出ている。

例えば米国では1996年に、連邦エネルギー規制委員会が電気事業者らに対して、送電サービスを新規参入者に対しても差別無く提供することを義務づけた。

ところがその結果、(2011年の実績だが)全面自由化を行った北東部14州とワシントンDCの電気料金が1キロワット当たり平均14.3セントであったのに対し、まだ発送電の一貫運営を維持していた北西部や南東部の28州平均が11.0セントと、逆に安くなっていたのだ。

欧州でも同じ事が起きた。2007年に欧州委員会は送電部門を完全に別会社とする所有分離を決定している。

その結果、(2007年に対する2012年の比較だが)所有分離した英国の電気料金は27.8%も増加し、法的分離を行ったフランスでは16.6%増加している。

何が起きたのか。電気事業には巨大な設備投資が必要であり、燃料などもスケールメリットが発生しやすい。そのため、新規参入社が増加しても、彼らの発電コストは却って高く引き上げる原因となり、発送電一貫体制の方がスケールメリットを生かせた、ということになったらしいのだ。

そのようなことを踏まえて、日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究主幹は言う。

「競争を促す政策を考えなければ、発送電分離だけでは電気料金の低下にはつながらない」

欧米の事例は当然研究されていると思われるので、必ずしも日本で同じ事が起きるとは言えないが、この辺りは慎重に事を運ばないと、単純に「市場原理を導入すればなんでも良くなる」という主流派経済学の迷信にはまってしまう。

さて、日本は電力供給の効率化とエネルギーコスト低下を実現できるだろうか。




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