だから、結婚して(正確には同棲して)会社から帰宅したときに、家内から「お帰り!」と言われたときには、不思議な気分になったことを覚えている。
紅白での美輪明宏氏は、あくまで歌を主役に引き立てるためにと、自らは黒ずくめの衣装に身をまとい、黒子に徹していた。
また、頭髪もトレードマークである黄髪(金髪?)ではなく、黒のショートヘアで登場した。美輪明宏氏は前日に関係者に語っていたそうだ。
「衣装は歌のジャマをしないものに。『愛の讃歌』ならゴージャズでいいけど、ヨイトマケはワークソングですから」
その狙いは見事な演出として結実したと言えるのではないか。
そしてスポットライト一つだけという演出で、美輪明宏氏は、見事に「ヨイトマケの唄」を歌った、というより演じた。
その表現力は、ここで言葉にするのは困難だ。記事最後の動画を参照されたい。
それにしても、良く「土方(どかた)」という言葉の入った歌をNHKが生出演オファーしたものだと感心したが、このことの事情は後ほど触れたい。
私の父は鉄板を扱う溶接工だったので、正確には土方ではないが、当時の造船下請け工場の作業場は露天だったので、口癖のように言っていたのを思い出す。
「土方殺すに刃物は要らぬ。雨の三日も降れば良い。」
何かの都々逸だろうか。その後、日本の造船業は壊滅し、父の会社も倒産した。さすがに父は荒れた。当然だろう。まだ私は中学生だったが、この後息子を高校や大学に出してやりたいと思っていたにもかかわらず、収入が途絶えたのだから。しかも父と私は45歳も歳が離れていたので、既に高齢だった父にとって、次の仕事を探すのは、いくら経済成長期の日本でも困難だったに違いない。
それでも父は、既に衰えたとは言え戦争で鍛えた(父は大正生まれ)体にむち打って、知り合いの工場で非正規労働者として働き続けた。不安な日々だったに違いない。ふがいない日々だったに違いない。
自分も家庭を持ち働くようになり、そしてデフレに入った後、2回も勤め先が倒産する経験を持って、痛い程わかる様になった。
それでも父は働き続け、私は三流とはいえ大学を出ることができた。そのとき、父が私以上に喜んでいたことを思い出す。
おっと、また、自分のことになってしまった。話を戻す。
「ヨイトマケの唄」は1965年に発売された。炭鉱労働者を題材にしたこの曲は、作者である美輪明宏氏も関係者も予想しなかった大ヒットになる。
しかし、前述の様に差別用語が含まれているということで、放送禁止になった。ばかばかしい限りである。差別用語を使用禁止にしても、差別は無くならない。ばかげた言霊信仰だ。
80年代になると放送禁止楽曲から解除されたが、6分間という尺の長さによりテレビ局からは敬遠されたという。
実際、この度の紅白歌合戦出演により、2010年の「トイレの神様」(7分50秒)に次ぐ長さとなった。
それにしても77歳になるとは思えない力強い歌唱だった。このときばかりは騒然としていた楽屋ロビーまで静まりかえったという。
ステージを終えた美輪明宏氏は、楽屋口にある神棚に手を合わせた。
「無事に終わることができて、ありがとうございました」
信心深い彼らしい。ちなみに彼は法華経の信奉者でもある。そして語った。
「観客の1人1人の人生に自分の歌が染み込んでいくのが分かった。最近は命を捨ててまで我が子の命を守る無償の愛が希薄になっている。その無償の愛を伝えたくて歌いました」
そう語る美輪明宏氏の目には涙が浮かんでいたという。そうだな、そうだな、と誰もが思ったことだろう。
それにしても今回のNHKは頑張ったようだ。これまでにも何度か美輪明宏氏には「ヨイトマケの唄」を歌って欲しいと打診してきた様だが、美輪明宏氏は歌手一人の持ち時間に制約があったため、「ヨイトマケの唄」が歌いきれないと断り続けてきた。
ただ、今回の紅白歌合戦には、同じくNHKの番組である「SONGS」のスタッフが含まれており、この者に美輪明宏氏は語っていた。
「アナタが紅白をやるようになったら出てあげるわ」
さらに美輪明宏氏には、NHK側から言われていたことがあり、気になっていた。
「もともと離島の方たちなどから紅白を楽しみにしているという話が来ていて、出なきゃいけないのかなとは思っていたんです。それできまりました」
この後も「ヨイトマケの唄」が作られた際のエピソードで触れるが、美輪明宏氏は「使命感」を持って歌っているのだと感じる。
そしてSMAPの木村拓哉氏が楽曲を紹介した。
「今夜、美輪明宏さんが『ヨイトマケの唄』を歌います。戦前、戦中、戦後の激動の時代を貧しく、つらく、苦しくとも生きる、親子の絆を描いています。親が子を想い、子が親を想う無償の愛の歌をお送りします」
美輪明宏氏でなければ歌えないのではないか、という深いテーマだ。
そして飾りの無いステージで、まだスポットライトが照らす前の闇の中から美輪明宏氏の力強い歌声が響き始めた。
「父ちゃんのためならエンヤーコーラー」
場内も、楽屋も静まりかえった。そして、私も動画を見て、鳥肌が立った。
「ヨイトマケの唄」は、美輪明宏氏が自ら作詞作曲している。ただし、当時は丸山明宏という芸名だった。
この奇妙なタイトルの「ヨイトマケ」は、美輪明宏氏によると、まだ建設機械が発達していなかった時代に、日雇い労働者達が数人がかりで滑車を使って持ち上げねばならないほどの重量の槌を持ち上げるときのかけ声である「ヨイっと巻け」というかけ声にちなんだものなのだという。
それにしても歌謡曲といえば恋、シャンソンと言えば愛というような時代に、どうして炭鉱労働者を描いた歌を作ったのか。
まだ華やかな衣装に身を包んでシャンソンを歌っていた美輪明宏氏(当時は丸山明宏)に、あるとき炭坑町でのコンサートの仕事が入った。
当時の美輪明宏氏は、乗り気では無かったというが、いざ現場に行くと、炭鉱労働者達が少ない賃金のなかからチケットを買い、客席が埋まっている情景を目にして衝撃を受けてしまった。
「これだけ私の歌が聴きたいと集まってくれているのに、私にはこの人たちに歌える歌がない」
若き美輪明宏氏の感受性の豊かさを物語るエピソードである。そして、彼は、労働者の為の楽曲を作ろうと決心し、生まれたのが「ヨイトマケの唄」だった。
この楽曲がテレビで放映されると、放送した放送局(NETテレビ。現在のテレビ朝日)になんと10万通以上の投書があり、アンコール放送を余儀なくされた。それほど多くの人々の心を打ったのだ。
レコードはシングルとして40万枚を売り上げた。
しかしまもなく前述した通り、歌詞に使われている「土方(どかた)」が放送禁止歌謡曲として指定され、民放では放送されなくなった。但し、この放送禁止歌謡曲というのは、日本民間放送連盟で指定したものだったため、恐らくNHKは関わっていなかったと考えられ、その延長線上に、この度の紅白歌合戦でのフルコーラス出演が可能になったとも思える。
実際、紅白歌合戦では堂々と「土方(どかた)」と読みも含めて字幕が表示された。ここはNHKを誉めてあげたい。
以下、「ヨイトマケの唄」を歌う美輪明宏氏の動画を2本貼り付けた。前述したように、紅白歌合戦の映像もネット上にアップされていたのだが、すぐに削除されてしまったので、代わりの動画だ。
最初の動画はこの度の紅白歌合戦とほぼ同じ衣装や演出になっているが、残念ながら音声と画像がややずれていて見づらい。
2つめの動画は、衣装などは異なるが、歌詞が字幕で表示されているので、分かり易い。従って、どちらかというと後の動画をお勧めしたい。
【NHK紅白での演出に近い映像】
【歌詞が分かり易い映像】
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「シスターボーイ」は私も後で知った言葉です。さすがに現在の美輪明宏氏には年齢的に使いにくい言葉ですが、少々「オカマ」や「ニューハーフ」とはニュアンスの異なる言葉ですね。
そうですか、ご主人のクラブに三輪氏が。
しかもコースターにサインしたところがなにやら粋ですね。
このブログでは時事問題を扱っていますが、本年もネタはてんこ盛りになりそうです。
それでも良い時代になることを、祈っております。
お正月はブログへのコメントありがとうございました〜。
呆然と、そして慌ただしく過ごした年末年始も終わり、ようやく普通の生活が始まりました(笑)
ヨイトマケの唄。ちゃんと聞いたのは初めてでした。
一緒に聞いた友人達と「昔は親も子供も強かったよね」としみじみと話しました。
そして「よくこの歌をNHKが歌わせたなあ」と、私も紅白をみながら感心し、ちょっと見直しました。
こういうことが出来るのなら、紅白も捨てたもんじゃないですよね。
今年もまた一年始まりましたね。
しげぞうさんにとって良い一年になりますように!!
そちらのブログは愛猫家として、日々拝見しております。
ヨイトマケの唄はいろいろな人がカバーしているようですが、やはり美輪明宏氏のヨイトマケの唄は迫力有りますよね。
ああ、もうすぐ会社勤めの日々が始まりますね。
お互いに、体調を整えておきましょう。
本年もよろしくお願いします。