26日、中国で世界最長となる高速鉄道が全線開通した。「京広高速鉄路」と呼ぶ。京広高速鉄路は首都北京と南部の広州を結ぶ。開通した全線の距離は約2300キロで、中国鉄道省はこれが営業距離では最長の高速鉄道だと自慢している。
比較としては、日本の東京〜博多間(東海道・山陽新幹線)の約2倍に当たる。日本も日本海側に新幹線を通し、四国も通せば、あっという間に抜けるだろう。まぁ、それほどの壮大なスケールで国土開発を目指せる大物は、今の日本にはいないだろうが。
そもそも万里の長城がある国土の広い国だから、鉄道が最長になっても特に驚かないが、これまでなかなか発展させることができなかった中国内部の発展に寄与するであろう事は容易に想像できる。
そしてこの京広高速鉄路は、ほぼ中国を縦断することになる。北京と広州は最短約8時間で結ばれるから、画期的なことだ。これまでは20時間以上かかっていたという。
ともかく、中国鉄道省が誇示している「世界最長の高速鉄道」は認めざるを得ない。但し、安全かどうかといったことは誇示されていない。
ちなみに中国では昨年7月、高速鉄道の整備の不備で大事故を起こした。40人が死亡、172人が負傷した浙江省の事故だ(但しこの数字の信憑性は不明)。その事故を受けて、高速鉄道網の拡張はペースダウンしていたが、今年に入って再び加速させた。
中国政府としては、安全性を強化した為だという。鉄道省幹部は言う。
「事故から教訓を得た」
そう、事故を起こしたら、まず、証拠を埋めるのでは無く、人命救助が優先されるのだ、ということも学んだだろうか。
ともかく中国は、鉄道建設拡大を再開した。このことで内需拡大を狙う。
例えばこの度の全線開通では、5省の省都が結ばれることになるという。これまで未開発だった停車駅周辺では、既に住宅需要の拡大が見込まれ、マンション建設が急ピッチで進められている。この「急ピッチ」が、「手抜き」とイコールでないことを期待したい。
とにかくこれで内陸部の発展と内需拡大が始まる。日本でも新幹線による地域発展(例えば九州)の効果はめざましいが、何故かあまり報道されない。
ちなみに最高時速は350キロに設計されているらしいが、さすがに浙江省の事故への反省から、当面は時速300キロで運行するという。
この京広高速鉄路には、CRH380Aなどの列車が走ることになるが、このCRH380Aは実は日本の東北新幹線である「はやて」をベースに開発されたものだ。ということを中国は自国民に知らせているかどうか分からない。また、どこまで日本の安全設計やシステムを学んだかも不明だ。
さて、この高速鉄道、せっかく世界最長なのだから、と使いたがっている人達がいた。
宅配便業界である。
宅配便業界によれば、この高速鉄道さえ使えれば、
「自動車利用より確実で、航空便利用より低コスト」
であることが魅力なのだという。
しかし残念ながら、この京広高速鉄路には荷物用車両は用意されていない。しかも、仮に荷物用車両が追加されたとしても、途中駅での停車時間が短すぎて、積み下ろしができない。
そこで宅配便業界は考えた。
「配達員に荷物をもって乗り込む“かつぎ屋”方式はどうだ」
なるほど、それなら、機敏な動きができる。しかし、担げる荷物が少なすぎるし、目的駅毎に担ぎ屋が必要になってしまう。ちょっと現実的ではないようだ。
それでもやはりせっかく繋がった世界最長の線路は使いたい。そのため、現在各宅配便業者ごとに、各地の鉄道局と相談を始めているというが、こういうことは、業界団体がまとめて鉄道省と協議したほうが早い気もするがいかがだろうか。
さらに鉄道省が懸念しているのは、宅配業者を参入させることで荷物の安全性確保が難しくなると言うことだ。
というのも最近、航空便で危険物が扱われていたことが分かり、宅配便会社分社の航空便貨物代理店の資格を剥奪する、といった制裁が加えられることがあったからだ。
「安全性の確立が、宅配便の高速鉄道利用の重要な要素になる」
と、宅配便業界は検討している。
ただ、高速鉄道そのものを利用できなくても、宅配便業界にとっては良い影響が出ることが分かっている。というのは、京広高速鉄路が開通したことで、在来線の京広線を走る旅客列車の便が大幅に削減されたことによる。つまり、その空いた分を、貨物列車の増便に充てることが可能になったのだ。
この貨物列車増便をおこなうだけで、これまで年間4000万トンだった輸送能力が一気に1億2000万から1億5000万トン程度まで増やせるのだという。
ともかく、京広高速鉄路は中国の内需拡大に貢献することは確かだろう。でも、今度は埋めないでね。