祝、北朝鮮が国民の飢餓と引き替えに成功させたロケット打ち上げ。
さて、この度のロケット(長距離ミサイル)打ち上げ時期や、その成果について、幾つもの波紋が広がった。それらの波紋の一部を拾ってみたい。
まず、同じ朝鮮人の韓国。
何でも他人(他国)のせいにし、良い事は自国の功績とする韓国人だが、今回は自国の政府と国防相に非難が向かった。
政府に対しては、その打ち上げに関する情報分析力に問題があるのではないか、というものだ。北朝鮮のロケット(長距離ミサイル)打ち上げについての予想が二転三転したためだ。
しかも韓国政府及び国防相は、本気で北朝鮮のロケット(長距離ミサイル)打ち上げが延期されたと判断していたようだ。
というのも、11日にある決定が成されていたためだ。その決定とは、14日に国防相とメディアとで忘年会を開催するということだった。
驚くほどに彼らの緊張感が欠如していたことがうかがわれる。
そしてその批判と合わせて、政府に対して向けられたもう一つの批判は、韓国のロケット(長距離ミサイル)技術が北朝鮮に後れを取ったではないか、というものだ。
後ほど触れようと思っているが、もしこの度の北朝鮮ロケットが無事に人工衛星を軌道に乗せていれば、韓国はロケット開発で後れを取ったことになる。
先月末に予定していた韓国の羅老(ナロ)号は、トラブル続きで延期され続けているためだ。そのため、12日の国会ではそのことを政府が認めた。
「中長距離ミサイルの技術は北朝鮮がリードしている」
日中に負けたのなら仕方が無いが、あの北朝鮮に負けた。これが国民にショックを与えたであろう。さて、誰のせいになることやら。この後の大統領選挙でも、候補者はこの件を避けることは出来まい。
特に政府と国防相が北朝鮮のロケット(長距離ミサイル)打ち上げ予想を見誤ったことについては、様々な言い訳がでている。
特に問題になったのは、11日には、ロケットが解体されているため、打ち上げは当分無い、という情報を流したことだ。
これについて、韓国の国防相報道官は13日に釈明した。
「北朝鮮が欺瞞(ぎまん)戦術を使ったようだ」
騙された、と言い訳しているが、騙されたことが事実だとすれば、それはそれで問題が残る。また、韓国政府は、
「(11日)午後にミサイルが発射台に装着されているのを観察したが、秘密の内容なので話すことに制限があった」
などと、実際にはわかっていたのだが、ふにゃふにゃ…といった不明瞭な言い訳になった。しかし、もし秘密裏でも分かっていたのであれば、14日の忘年会決定はどのように解釈できるのか。国民は追求するであろう。
そして苦し紛れの国防相報道官は言う。
「(11日の)午前と午後で状況が変わった。メディアは午前の状況を報じたようだ」
言うことがだんだん補正されている。しまいには開き直ったのか、
金寛鎮(キム・グァンジン)国防相は12日の国会国防委員会で
「ミサイルはずっと発射台に装着されていた」
と発言してしまった。さぁ、これもまた追求されるだろう。
さて、打ち上げられた北朝鮮のロケット(長距離ミサイル)は、成功したと言えるのかどうか。今後はここが調査の対象となる。
米政府高官はCNNの取材に対して、人工衛星は確かに地球の周回軌道に投入されたとしている。但し、
「北朝鮮は完全には制御できていないようだ」
と見ている。
というのも、人工衛星投入後に、管制室から発信されるべき制御のための信号が発せられていない為だという。
それでも一応、北朝鮮の衛星(通信衛星らしい)は、地球を南北に周回し始めているという。ただ、安定した軌道に乗っているかどうかは、まだ分からない。本来であれば、軌道にのったらすぐに、太陽光パネルを広げるなどの制御信号が発せられるはずなのだ。それが確認できていない。
つまり、打ち上げっぱなしになっているという。
一方、韓国国防相報道官は、北朝鮮の衛星について、米国側とは少々異なる見解を示した。
「軌道を正常に回っていると判断される」
ただ、やはり北朝鮮が衛星と地上とで交信していることが確認できてはいないとしている。
米軍事当局者は、そのロケットの性能にも注目している。
もし、衛星を周回軌道に乗せることに成功したのだとすれば、このロケット(長距離ミサイル)の射程は約1万キロをカバーできる可能性がある。ということは、米西海岸に到達できるということだ。
それが事実であれば、米国に取って脅威となる。
パネッタ国防長官はテレビ番組でコメントしている。
「何が起きたかをまだ評価中で、本当に成功だったのかどうか判定しているところだ」
一方、米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターでは、北朝鮮の衛星が高度494〜588キロの太陽同期軌道上を周回しているという分析結果を発表している。
これを補足するかのように、韓国国防相報道官の発表では、衛星は秒速7.66キロで移動しており、地球を一周するのには、95.4分かかるとしている。
いずれにせよ、北朝鮮は人工衛星らしきものを軌道上に投入したことは確かなようだ。そしてその衛星は、太陽光パネルも開いておらず、地上からの信号も受け手おらず、誰にも制御されていないらしきことも分かってきた。
ただ、それでは完全にただの物体が軌道上に放り投げられただけなのかというと、そこはまだ今後の調査を必要としている。
この後、北朝鮮が制御を始める可能性も残っているし、逆に安定した軌道上に乗っていなければ、地球に落下して燃え尽きてしまう可能性もある。
さて、次に国際的な反応はいかに。
12日には早速国連安全保障理事会が報道声明を出している。
「(核実験後の)安保理決議の明確な違反に当たり非難する」
そして、引き続き協議を行い、今後の制裁の是非について検討するという。
大騒ぎしている日韓は、共に安全保障理事会のメンバーでは無い。そのため、メンバーである米国に対して制裁強化を訴えることになる。
米国も同調しているだろうが、当然メンバーの中国やロシアが反発するだろう。
国際社会にとっての関心事は、打ち上げられた衛星にはない。打ち上げたロケット、つまり長距離ミサイルに注目している。
この度の成功(だとすれば)は、いよいよ北朝鮮は長距離ミサイルの発射能力を世界に実証してみせたことになる。
後は、ミサイルに搭載できる小型の核弾頭を開発できるかどうかだ。
パネッタ米国防長官は非難する。
「あからさまな挑発行為」
カーニー米大統領報道官も非難する。
「北朝鮮が孤立を終わらせる道も存在するが、そのためには国際的な責務を果たさなければならない。そうしないことを選んだからには、重大な結果を招く」
さらに米戦略国際問題研究所のビクター・チャ氏は危惧する。
「北朝鮮がこの技術を、これまでも北朝鮮からミサイルを買い付けていたイランやパキスタンなどに売り込む可能性がある」
現に、イランの軍高官は、この度の北朝鮮のロケット打ち上げ成功に歓迎を表明している。
次に、何故、このタイミングで打ち上げたのか、ということを想像してみたい。
北朝鮮がこの手のロケットを打ち上げる理由は主に3つあると言われている。
・国際社会との駆け引きを有利にする力の誇示。
・国内に対する金正恩体制の正統性強化。
・核抑止力を高めるための戦略の一つ。
これらを効果的にする時期が今だと考えられるのだ。もちろん、細かな時期については、金正日総書記の一周忌を記念する、という意味もあるだろう。しかし、それだけのためにこの大がかりな賭け(失敗すれば目も当てられなかった)を行うとは考えにくいからだ。
一つ目の国際社会との駆け引きだが、今年は各国の選挙や政権交代が重なった。特に米国のオバマ大統領再任、中国の習近平(シーチンピン)共産党総書記の就任。そしてこの後、韓国の大統領選と日本の総選挙が控えている。
それらの新体制にたいして、北朝鮮は危険な状況にあるぞ、と見せることで、それを止めさせたければ食い物をくれ、という交渉が始まる。これがいつものパターン。
つまり、各国が選挙や政権交代に夢中になっている中で、北朝鮮を忘れるな、新たな政権は餌をよこせ、という合図なのでは無いかとみられている。
次に国内に対して。
前述したように、金正日総書記の一周忌を記念せねばならない。それが金正恩体制の正当化になるからだ。そして国民に対して技術力をアピールし、金体制の正当化と権威の向上を図ろうというものだ。
これは同時に、常にそのような誇示をしていなければ、この体制は崩壊する可能性があることも示していると言えるだろうか。
そして国際社会、特に米国からの非難が強まれば、金体制はそれに対して「ほら、米帝国主義が我が国を脅かしている。結束せよ!」と言うつもりなのだろう。
そして最後の戦略上の意味。
これは今年になって韓国が宣言した射程1000キロの巡航ミサイル配備ではないか。当然北朝鮮全域を攻撃できる。
つまり、韓国との軍拡競争の一環であるとする見方だ。
と、いろいろ考えてみたが、今このときも、北朝鮮の人々は腹を空かせている。