3日、ロシアのプーチン大統領がトルコのイスタンブールを訪問し、エルドアン首相と会談した。
これは非常に分かり易い、教科書的な外交の様に見えた。
プーチン大統領は、噂では柔道の練習で脊椎にけがを負ったという。そのため暫く外国訪問を控えており、この度のトルコ訪問は実に2ヶ月ぶりの外遊となった。
ロシアとトルコは、対シリア姿勢においては対立している。ロシアはシリアのアサド政権を支持しているが、トルコはアサド政権の退陣を求めている。そのため、10月にはトルコ軍がロシアを発したシリア航空機を強制着陸させるなどしている。
しかし、このことについてトルコのダウトオール外相はプーチン大統領が訪れる前日にテレビで表明している。
「シリアを巡ってロシアとトルコの関係が緊張することはありえない」
そう、対立している場合ではないのだ。それは経済的な理由だ。つまり、対シリア外交上は対立する間柄だが、経済的には協力しあおう、という両者の方針は合致している。
最もトルコがロシアに依存しなければならなくなったのが天然ガスだ。例えば昨年の天然ガス依存度は、ロシアが55%とトップで、次がイランの21%だった。
そこでトルコでは、一つの国に50%以上も依存するのは不安定だと考え、イランへの依存度を上げようとしていた。
ところが例の米国による対イラン制裁強化が影響し、イランからの天然ガス輸入の量が減少してしまった。
トルコ自体、対立するシリアのアサド政権を支持しているイランとは対立関係になってしまっている。
その結果、ロシアへの依存度を下げようという目論見は崩れた。
しかしエネルギーは経済活動に必要だ。そのため、方針を変え、ロシアからの天然ガス輸入をより安定させねばならなくなったわけだ。
まぁ、教科書に載せても良いくらい、分かり易い話になっている。
そして先月、トルコの国営ガス企業「ボタシュ」は、ロシアの政府系であるガスプロムと30年間の天然ガス輸入契約を締結した。
特にエルドアン首相がプーチン大統領に求めたのは、冬の天然ガス需要増加へのロシアの対応である。これについて、プーチン大統領は応じることを意思表示した。
これも分かり易い話で、ロシアにとっても渡りに船だったのだ。何しろこれまで天然ガスの主要輸出先だったEUが、例の債務危機ですっかり需要減少となってしまった。
そのだぶついた分を、トルコが欲しがっているのだから、ロシアにとっては渡りに船だろう。
ただ、「ほんとうかな?」と思えたのは、プーチン大統領がエルドアン首相との会談後の記者会見で、
「われわれはアサド政権を擁護するのではなく、シリア政府の擁護者でもない。われわれが関心を寄せるのはシリアの将来だ。われわれは同じような過ちを繰り返すことを望まない」
と発言したことだ。この発言が意味するメッセージを私は理解出来ずに居る。単にトルコに対する緊密さをアピールする為だけだとも思えないためだ。
もしかすると、アサド政権はそろそろやばい、というロシア側の認識があるのかもしれない。
ただ、ロシアとて国際平和は望んでいるのだ、というアピールも続けている。
「シリア問題でロシアとトルコの立場は同じだ。しかし、ロシアはシリアの将来の発展に対して異なる見方を持っている。双方はすでに、関連の問題について意見を交わすと共に、新段階の協力目標を確定した」
この「新段階の協力目標」がどのようなことかについては、ネット上を見ても見つからなかった。
ただ、トルコはNATOである。実際、トルコはNATOに対し、シリア国境地区にパトリオット・ミサイルを配置するように要請した。
このことについてプーチン大統領は懸念を表明した。
「われわれはトルコの懸念を理解する。しかし、ミサイルを配置するという行動はわれわれが見たくないことだ。これは現在の問題の解決にプラスにならない」
それでも今回のプーチン大統領のトルコ訪問は一定の結果を出している。それがイスタンブールで作成された11の合意文書だ。
しかし、この11の合意文書を見つけられなかったが、ほとんどは経済協力に関するものだろう。
また、ロシアにとってトルコはエネルギーの輸出先というだけではない。原発建設の顧客でもある。
2日、ロシアのノワク・エネルギー大臣が、トルコに新たな原発を建設することを明らかにしている。
「ロシア国営原子力企業・ロスアトムは、現在、トルコで、建設している原発以外に、新たな原子力発電所を建設する」
そしてトルコも一方的にロシアからエネルギーや原発を買っているばかりでは無い。
トルコの企業はロシア国内の地域開発に参入しているのだ。
そして経済協力関係はますます密になろうとしており、ロシアのガスパイプラインがトルコ領海内を通るという巨大な建設プロジェクトも協議されている。
シリアを巡っては対立する両国だが、経済面での協力が両国にとってメリットがあるため、両国が表立って対立することは無さそうだ。
さて、そのシリアだが、アサド政権はいよいよ自国民に対して、化学兵器を使いそうだと言われている。
以下、シリア、ロシア、トルコに関する関連記事です。
『シリアの砲撃に報復するトルコ。シリアは何故トルコを砲撃したのか。』(2012/10/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/295414151.html
『シリアは化学兵器を使用するか』(2012/07/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/282860806.html
『シリアで200人規模の虐殺。アサド政権側か、反政府側か。』(2012/07/13)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/280748896.html
『シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる』(2012/06/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277587322.html
『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html
『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html
『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html
『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html
『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html
『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html
『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html
『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html
『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html
『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html
『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html