イスラエルとハマスの仲介を行ったエジプトのモルシ大統領だが、実は自分の足元がぐらついていた。エジプトはややこしいことになっている。
22日モルシ大統領が「憲法宣言」を行って以来、エジプト各地で激しい抗議活動が行われている。「憲法宣言」とは、大統領の決定を裁判所が覆すことはできないと定めたとする宣言のことである。
そこで26日、モルシ大統領は大統領の権限強化に反発する最高司法評議会の幹部等と会談した。
その会談で、「憲法宣言」の適用範囲を国家主権に関わる決定のみとすることで、司法の独立を尊重するという歩み寄りを行う主張を行っている。
この会談の仲介者はメッキ法相だ。会談の前に、最高司法評議会(司法機関を監督する立場)が示していた妥協案をモルシ大統領が受け入れることが示されたわけだ。
しかし最高司法評議会側としては、まだ大統領の対応に不満があるという。
「事態は何も解決していない」
それに対し、モルシ大統領は、この憲法宣言を発令した目的は、民主的な改革の加速に必要であると説得をしている。何を言いたいのかは後ほど触れたい。
しかし国内は騒然とし、反体制派の怒りは収まりそうも無い。そのためモルシ大統領を支持するデモを予定していた穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団は、このデモを急遽中止した。
しかし、反体制派は大規模デモを行うと息巻いている。
モルシ大統領はまた、この大統領権限の強化は、あくまで一時的なものに過ぎないと強調したが、対抗勢力は「独裁者のようだ」と批判を強めており、聞く耳を持たない。
首都カイロのタハリール広場では、デモ隊が抗議を続けており、あくまで憲法宣言の完全な撤回が行われるまで暴れる意欲を示している。
既にこの衝突で、一人が死亡し、約370人が負傷していると伝えられている。
また、この憲法宣言の超法規的な権限強化を批判するために、裁判官の一部もストライキを始めた。そのためエジプト都市部の裁判所の多くが閉鎖されるという異常事態に至った。
このような混乱による社会情勢不安定化により、エジプトの株価指数も25日には10%安となった。先週はIMF(国際通貨基金)からの48億ドル(約3950億円)のエジプトに対する融資が暫定合意されたため、株価が上昇していたが、それを帳消しにしてしまった。
24日にモルシ大統領と会談した飯村豊・中東和平担当特使によると、モルシ大統領は、
「移行期には例外的な決定が必要なこともある」
と語ったという。
どういうことか。
モルシ大統領が狙っているのは、エジプトの法曹界であると言われている。エジプトの法曹には、前政権で任命された者たちが残っているためだ。彼らの司法権限にメスを入れようというのだ。
そのために、一時的に大統領の権限を強化したい。
この大統領の動きに対し、新たな政治団体「救国戦線」が発足した。野党指導者らが結集したもので、これに有力政治家のエルバラダイ前国際原子力機関事務局長も合流している。彼らはムスリム同胞団による政権奪取に対する国民の不安を代弁しているということらしい。
さらに反政府勢力はエジプト新聞連合の協力を得ることに成功した。なんとエジプト新聞連合は国営新聞に対し、モルシ大統領が憲法宣言を撤回するまで、輪転機を止めるように要求した。大統領寄りの報道を絶ってしまおうということか。
モルシ大統領の支持者らは、この憲法宣言が前政権の残党や大統領が進めるとしている民主化の邪魔をする反政府勢力による停滞を打破するために必要だと認識していると主張している。
また、モルシ大統領も、この憲法宣言は新たな議会選挙後には、新憲法のための国民投票を行うことを約束するとしている。
一方、政治家の多くや、アナリスト達は、この憲法宣言は、司法権を無力化してしまうと懸念する。さらに憲法制定議会でのムスリム同胞団の影響力が強まっているとし、憲法制定会議への批判を排除するためのものだと批判している。
これらの状況に対し、米国はどの様に見ているか。カーニー米大統領報道官は26日の記者会見で述べた。
「(モルシ大統領の憲法宣言について)われわれは懸念しているし、疑問視している。米国はこの問題でエジプトに対して関与を続ける」
首都カイロやアレキサンドリアなどでは、数百万人規模のデモが行われている。まるで2年前の革命のときの様になっている。
モルシ大統領は必死に反対勢力との対話を呼びかけている。
「エジプトには革命にとって危険と見なされ、司法機関の裏に潜んでいるグループがいる」
そして、
「私は彼らを待ち伏せし、彼らを逃すことはない」
エジプトは不安定な状態だ。ムスリム同胞団の影響力に不満を持つ勢力、もはや軍隊は権力を失い、他国の支持で動いているらしき過激派の台頭、ムバラク政権の残党など、混沌としていた勢力争いが、顕在化してきたのだ。
彼らはモルシ大統領と反政府勢力の衝突による混乱を待っていたかのようだ。
エジプトの民主化は、まだまだ混乱の中にある。