2012年08月22日

「最後の大国」ロシアのWTO加盟

22日付けで、「最後の大国」と呼ばれていたロシアがWTO(世界貿易機関)の加盟国となることが決まった。156番目の加盟となる。

これは世界経済、とりわけ日本には影響を与えるだろう。ロシアの経済規模は世界9位で1兆9000ドルとなっている。(GDPは約36兆円)

WTOへの加盟交渉は実に18年以上掛かっているので、ソ連崩壊後のほとんどの期間を費やしたことになる。つまり、旧ソ連が崩壊して市場経済が始まった直後の1993年にはGATT(関税貿易一般協定)に加盟を申請していた。

では、何故、これほどWTOへの加盟に時間が掛かったのか。

それは、ソ連崩壊後のロシアが、農業やエネルギー分野で保護政策を推進したため、欧米と対立したことによる。また、グルジア(欧米寄り)との軍事衝突も、加盟を遅らせる原因となった。

それが昨年の12月に、メドベージェフ大統領とオバマ大統領が米ロの関係改善を目指したことで一気にWTOでの承認を取り付けた。

ロシアはWTOへの加盟を機に、これまで国内産業を保護するために設定した平均9.5%という輸入関税率を、2015年を目標に平均6%にまで下げるという。

当然、ロシア国内では、皆がWTO加盟を勧化しているわけではない。

製造業も農業も、外国からの攻勢に耐えられるほどの競争力は無いとして、関係団体はいまだに反対している。下手をすると、大量の失業者が発生する可能性もあるからだ。

自由貿易とは、各分野毎に世界一安価な労働力を輸入することにも等しい効果をもたらすからだ。

逆に、例えば日本企業にとっては、ロシアへの最大輸出品目である乗用車については、関税の引き下げは歓迎される。新車については現在30%という高い関税率が、2019年を目標に15%(それでも高い)まで下げられる見込みだ。

これは自動車産業にとっては期待するところだろう。現状の関税率においてでも、ロシアへの自動車の輸出額は、この10年間でなんと16倍にまで伸びているからだ。

ただ、ロシアでは関税率を下げることで急激に自国内の自動車産業がダメージを受けないために、今年の9月から輸入車だけに対して「リサイクル税」を導入する予定だという。だから単純に関税率が下がったといって喜ぶのは早い。

それに自動車市場には、安いドルや安いウォンを競争力にした米韓の自動車との競争もある。日本の円高は不利だろう。これを解消するには、日銀がマネタリーベースを拡大し、また日本がデフレ脱却を実現せねば、円は下がらない。一時しのぎの為替介入など、却って逆効果だ。しかし日本の政府の増税政策は、財政を悪化させ(増税は税収を却って減少させるから)デフレを悪化させるはずだ。その結果さらに円高は進むだろう。民間企業の努力には限界がある。

他にも家電や電子製品の関税率も、現在の15%から7%程度まで下げていくという。さらにコンピューターなどのIT製品に限っては、輸入関税をゼロにする目標だという。

勿論、ロシア自身の経済成長も期待されている。現在の輸出といえば、資源が中心だが、WTO加盟により、外国からの投資を呼び込み、経済の近代化を目指している。

国内では反対派が多いが、海外製品の攻勢を受けることで、ロシア国内の産業の競争力が高める狙いもある。そのためにも、外国の投資が必要となる。

その成功例として、ロシアは中国を見ているはずだ。中国は2001年にWTOに加盟している。それを機会に「改革開放」路線を進め、外資を呼び込むことに成功した。

ロシアがこのモデルを踏襲できれば、長期的にGDPを成長させられるとみられており、世界銀行の試算ではGDPを中期的には3%以上、長期的には約11%押し上げるだろうと見込まれている。

そしてこのことを成し遂げるために、ロシアは諸々の課題を解決する様に努力すると期待されている。例えば司法の独立性、煩雑な行政手続き、はびこる汚職などだ。これらが改善されねば、外資を呼び込めない。

プーチン大統領は、2008年後半に原油価格の下落により経済を失速させたという嫌な経験を持っている。そのため、ロシアの経済構造を、エネルギー資源で外貨を稼ぐ構造から脱却させることを急ぐだろう。

また、日本にとっては、これからのロシアとの経済関係が、北方領土問題の解決に影響を与える。領土問題と経済(というか経済力)は関係がある。

さて、「最後の大国」のWTO加盟で、政界経済や日本経済は、どのような影響を受けるだろうか。



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