2012年06月27日

シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる

26日、シリアでは新たに発足させたヒジャブ内閣の閣議が行われた。そこでアサド大統領は述べた。

「われわれはあらゆる意味において真の戦争状態にある」

そして国内の団結を呼びかけている。

それまでの「内戦ではなく、テロリストとの戦いだ」という主張から、「内戦」を認めざるを得なくなったようだ。

「戦争状態にある時は、政治のすべてを戦争に勝つことに集中させなければならない」

アサド大統領の言葉には、反体制派を鎮圧できないことへの焦りが感じられる。

そして同じ日、LCC(反政府団体の地域調整委員会)によれば、反政府勢力と政府軍の衝突で、113人が死亡したという。このうち首都ダマスカス近郊で死亡したのは33人だ。

日々これだけの国民が死に続けているのは、確かに「戦争状態」と言える。単なるデモや暴動を超えてしまった。立派な「内戦」ではないか。

しかし国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、「テロリスト集団」と政府軍が衝突し、わずか「数十人」が死亡したと伝えただけだ。その際、ロケット弾発射装置や銃などが押収されたという。

このような状態で、既に国連監視団は現地での活動を中止している。治安が悪すぎるのだ。

アナン前国連事務総長は、30日には関係国による「連絡グループ」会合を開催したいという意思を示していると伝えられているが、正式な発表はされていない。

いずれにせよ、押収された武器の内容も、アサド大統領を焦らせているだろう。反体制派に、サウジアラビアやカタールなどから、武器や資金が提供されていると考えられているからだ。

しかも、それらの武器や資金の配分は、米国が担っているとまで言われている。そうなると、アサドは単に反体制派の市民と闘っているのでは無くなる。背後にアラブ諸国や米国がいる。

しかもアサド大統領の焦りは、身内であるはずだった軍の求心力が失われつつある状況にも影響されているだろう。

21日には空軍のパイロットが戦闘機ごとヨルダンに亡命している。また、25日にはなんと将兵33人が、陸路を使ってトルコに逃げ出してしまっていた。

そのような状況を見て、カーニー米大統領報道官は26日に語った。

「最近の軍高官のヨルダンとトルコへの亡命は、アサド政権がシリア国内で支配力を失っていることの証左だ」

そしてアサド大統領の早期退陣を求めて続けた。

「退陣拒否が恐るべき犠牲をシリア国民にもたらしている」

カーニー大統領報道官が上記の様に語ったこの日も、シリアでは民間人が68人、政府軍兵士が41人、反体制派戦闘員7人が死亡している(シリア人権監視団調べによる)。

しかし、とカーニー大統領報道官は言う。アサドは退陣せずに、権力にしがみついていると。

「だが、アサド氏が航空戦力とシャッビーハ(シャビハとも)を投入し続けていることから、同氏がいかなる代価を払ってでも権力にしがみつこうと捨て身になっていることは明らかだ」

米政府は開戦のネタを探し始めたのか?シリア軍がトルコ軍機を撃墜したことも利用できそうだ。このときも即座にNATO加盟国としてのトルコを支持する表明を行っている。

さらに、30日にスイスのジュネーブで開催される予定の国際会合では、シリア問題がテーマになるが、米国は、ロシアがイランを参加させるべきだ、と主張していることに反対している。

もはや流れはアナン前国連事務総長の調停活動を形骸化したと言われ始めた。暴力によらない調停は不可能な趨勢だ。

既に多くの人々が死にすぎている。昨年3月の反政府デモから、既に1万5千人以上が死亡したと言われている。

アサド大統領も引くに引けない状況に追い込まれつつある。米欧からの退陣要求には明確に拒否した。

「あらゆる国と良好な関係を築きたいが、シリアの利益がどこにあるのか見極めなければならない」

そして政権維持を強調するように続けた。

「国民は(政府を)支持する」

首都ダマスカス郊外では、最も規模が大きいと言われる砲撃戦が始まった。

もはや暴力によってしか、この混乱は鎮められないのか。


以下、シリア関係の投稿記事です。

『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html

『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html

『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html

『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html

『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html

『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html

『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html

『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html

『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html

『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html

『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html




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