2012年06月25日

エジプト新大統領モルシー氏は、ぬかるみへの第一歩を踏み出したかもしれない。

前回に引き続いてエジプトのお話。

いよいよエジプトに、初めてのイスラム主義の大統領が誕生した。新大統領はムハマンド・モルシー(モルシ、ムルシとも)氏だ。この新しい大統領誕生に、タハリール広場に集まった支持者達は歓喜した。

が、この歓喜、いつまで続くだろうか。ここでエジプトの喜びに、水を差したい。

まず、今回の開票結果には、一部で予想された軍部による操作は行われなかったらしいことは評価されるべきだろう。とにかく対抗馬のアフマド・シャフィークが軍部による投票結果の操作によって勝利する、というシナリオも予想されていたが、それは現実とならなかった。

しかし、まだ実権は軍部が握っており、イスラム主義を基板にしたモルシー氏との対立が激化するのでは無いかと危惧されている。既に前回の投稿で書いた様に、ムスリム同胞団と軍部は、水面下での対立が始まっている。

ただ、モルシー氏は、革命意欲のある若者層の票を得るために、極力イスラム色は抑えてきた。今後それが単なる票獲得のポーズだったのか、実際の政策に反映するのかが注目される。

ただ、スタートの演説は良い。

「わたしは、全エジプト人の大統領となる。全エジプト人を等しく扱い、公平に尊敬する」

当選したが、イスラム色を濃くしない、という姿勢を貫く所信表明になっている。そして、宗教・宗派を超えて、エジプト人として団結することを訴えた。

しかし軍は先手を打っており、先に大統領の権限を制限し、ムスリム同胞団が主導していた議会も解散している。

モルシー氏に取っては、非常に足元のおぼつかない出発となる。しかも開票結果を見ると、モルシー氏が51.7%、シャフィーク氏が48.2%と拮抗している。決して圧倒的な支持を得たとは言いがたい。

そして外交敵には、非常に微妙な立場になっている。

まず、対イスラエル。モルシー氏が当選すると、すぐにイスラエルのネタニヤフ首相が声明を発した。

「両国の平和条約に基づき、エジプト政府との協調関係が維持されることを期待している」

これに対するモルシー氏の立場はこうだ。

「あらゆる国際条約を守り、世界に平和のメッセージを伝えます」

つまり、1979年に既に結ばれているイスラエルとの平和条約は守るとしている。しかしエジプト国民には反イスラエル感情が強いという。そのこともあり、イスラエル側はモルシー氏がパレスチナ寄りの政策を採用することで、イスラエルとの平和条約を破棄するのでは無いかと危惧しているようだ。

そしてそのパレスチナからは、イスラム原理主義組織ハマスの幹部であるハニヤ氏が、早速モルシー氏に電話をかけ、祝意を伝えてきた。そしてハマスの他の幹部もモルシー氏を勝手に歓迎している。

「(イスラエルの)占領政策を拒絶する運動を後押しする」

さて、どうする。国際社会で八方美人を貫くには、高い外交能力が必要だ。

しかもここにイランからの歓迎も伝わってきた。イランの国営メディアは24日の夜、伝えた。

「市民が独裁政権を倒し、ついにイスラム系大統領が生まれた」

そしてその報道内容は非常に好意的だったようだ。

イランも又、エジプトがイスラエルと平和条約を結んでいることには反発しており、1979年にイスラム革命で亡命したパーレビ国王が受け入れられると、エジプトとは断交している。

しかし今は、新たなイスラム系政権に接近しようとしている。

どうするモルシー氏。

しかもまだ実権は軍最高評議会にある。大統領の権限はかなり削られていくのでは無いかとみられている。しかも立法権や新しい憲法を作る委員会のメンバーも軍最高評議会が人選するという権利を維持している。

これに反発しているのが、ムスリム同胞団だ。政治的な駆け引きだけで無く、新たな混乱の引き金になる可能性もある。

どうするモルシー氏。

さて、もう一国、歓迎の意を表した国があった。米国だ。

オバマ大統領は24日、モルシー氏に電話で祝意を伝えた。

「エジプトの民主化を支援し続ける。米国とエジプトの共通の利益のために緊密な連携を取っていきたい」

これにはモルシーしも、民主化の支援を期待していると歓迎した。

そこでとりあえず、モルシー氏は表向き、ムスリム同胞団を脱退した。何しろムスリム同胞団はハマスとの関係が密接だ。つまり、反イスラエル、反米国だ。

そこから自由であることをアピールするためにも、脱退して見せたのだろう。まぁ、賢明なパフォーマンスだと言える。

さて、モルシー新大統領は、片方で米国・イスラエルに笑顔を見せ、振り返るとやはりイラン・パレスチナに笑顔を見せた。

そして国内では、軍最高評議会とムスリム同胞団の対立が激化しつつある。しかも大統領の権限はかなり制約されそうだ。

大統領として踏み出した足は、ぬかるみに向かっているかもしれない。


以下、エジプト関係の投稿記事です。

『エジプト大統領選の結果は、どっちに転んでも新たな火種だ』(2012/06/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277009953.html

『エジプトのムバラク大統領に死刑求刑。軍部への不満を反らす見せしめか』(2012/01/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244591656.html

『エジプト騒乱の続章の幕開けか。暫定統治の軍と、イスラム原理主義の衝突』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236099759.html

『エジプトの、新たな混乱が始まるのか。』(2011/02/12)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/185542674.html

『ムバラク大統領は、権力亡者となり暴走しているのか。後ろ盾の米国にも読めず。』(2011/02/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/185457860.html

『デモの長期化はムバラクに有利か、反ムバラクに有利か』(2011/02/05)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/184439695.html

『ムバラク大統領の退陣は、新たな対立を産む可能性がある』(2011/02/02)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183849084.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第五部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183236111.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第四部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183159468.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第三部。』(2011/01/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183150487.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第二部。』(2011/01/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183086820.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第一部。』(2011/01/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183082938.html



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