郵政民営化法改正案とは分かりにくい。まず、名称の漢字の連続が分かりにくい。しかしこれは、分割すれば分かり易い。
「郵政民営化法」と「その改正案」だ。
そして、郵政民営化は果たして良いことなのか、あるいはそれを改正しようという郵政民営化法改正案が良いことなのか。非常に分かりにくい。
正直なところ、私自身が賛否を繰り返している。
郵政民営化法改正案については、賛否両論あり、またややこしいことに、同じ反対派でも根拠が全く異なっているなど分かりにくい。
それらについては後半に触れたいが、まずは現状を見ておきたい。
12日午後、衆院本会議で郵政民営化法改正案が可決された。小泉純一郎元首相が推進した民営化の後退であるとの批判があるが、それについては後述したい。
ともかく郵政民営化法改正案は、郵政民営化を言い出しっぺだったはずの自民党と、民主、公明の3党が賛成多数で可決されている。まずは衆院を通過した。
ただ、自民党でも言い出しっぺを貫くために民営化を進めるべしとする中川秀直元幹事長、菅義偉元総務相、小泉進次郎青年局長(小泉純一郎元首相の息子だし)は造反した。
他にも塩崎恭久元官房長官らが「体調不良」という子供じみた見え見えの理由で欠席した。
中川秀直元幹事長は言う。
「自民党が輝かしい最近10年の歴史を自己否定した。処分するならすればいい」
小泉進次郎青年局長も言う。
「筋を曲げてしまっては『決められる政治』とは言えない」
何があったのか。それも後述できればいいのだが。何しろこの投稿記事は、書きながら情報を確認しているので、どうなるか書いている自分でも分かっていない。
ところで造反組は多勢に無勢。大した影響もないので、自民党執行部は造反組への処分は見送る可能性が高い。
郵政民営化法改正案の目玉は、日本郵政グループの「郵便局会社」と「郵便事業会社」を合併させることが一つ。
そしてもう一つの目玉(どちらかというとこっちが問題かな?)は、郵政民営化では完全売却を「義務」としていた「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の株式を、「義務」から「努力目標」に変更し、さらに処分時期を明記しないということにしたことだ。こちらは米国が噛みついた。が、それも後述できると思う。
もう一つあった。こちらは付帯決議だが、現行1千万円のゆうちょ銀行の預入限度額を当面引き上げないことにした。
書いている内に意味がわかってくるだろうか──。
ともかく、小泉純一郎元首相の改革案は骨抜きになった、という主張と、いや、骨抜きの振りをして通してしまった、という主張があるため、さらに議論をややこしくしている。
この改正案は、参議院の審議を経て、今国会で成立する見通しだ。
国民新党を離党した亀井静香氏も改正派だったので、次の様にコメントしている。
「郵政事業を再建していける法律的な状況にはなった。長くかかりすぎたがよかった。しかし、今からが大変なので、みんなで心を引き締めて対応していかなければいけない」
さて、米国が噛みついたと書いたが、何に噛みついたのか。TPPが絡んでいる。
TPPではとかく農業ばかりが問題になるが、米国が狙っているのはそれだけではない。保険・サービス業の自由化、というか米国化も狙いの一つだ。
そのため、郵政民営化法改正案で「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の株式完全売却ができないことに米国側が苛立った。これでは米国の同業界が日本に乗り込んできたときに、対等な競争を出来ない、というものだ。
いや、そもそもゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を、米国のハゲタカファンドが買収できないから米国が苛立っているのだ、という意見もある。
ただし、この買収については、経済学者の高橋洋一氏は、法的に無理だから安心しろと言っている。それは次の理由による。
高橋洋一氏によると、郵政民営化によって外資に乗っ取られる、という事は無いという。
その根拠は、銀行法上における銀行の三つの朱株主規制があるからだという。
一つ目は、株式を5%超保有する場合の大量保有規制。これは5営業日以内に銀行議決権保有届出書を提出する義務が生じる。
次に、株式の20%超を保有する場合の銀行主要株主規制。これは予め金融庁長官の認可が必要になる。
そして三つ目は、株式の50%超を保有する場合の支配株主規制。これは、金融庁長官が支配株主傘下の銀行経営の健全性を維持するという目的において、監督上必要な措置ができるということ。
そして高橋洋一氏は言う。郵貯が民営化されれば銀行法上の銀行になるため、かつて三菱東京UFJ銀行が外資に乗っ取られなかったことと同様に、郵貯も外資に乗っ取られる事は無い、と。
しかし本当にそのように外資による買収を躱せるのだろうか。
実際、米国の保険・サービス業界の16団体が、早速、郵政民営化法改正案に抗議する共同声明を発表した。
このように、内政干渉をすることが正当化されるのがTPPであることも記憶しておこう。何しろTPPは、米国が有利になるために、相手国の法律さえ変更させることができる。米韓FTAを見よ。韓国は米国の要望に合わせて自国の法律を返させられつつある。
さて、ここで初歩的な確認をしておきたい(勿論、私のために)。
そもそも郵政民営化で何が変わるのか?(初歩的すぎて済みません。<(_ _)>)
まず会社の体制が変わる。現在は持ち株会社である「日本郵政」の下に、「郵便局会社」「郵便事業会社」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」の子会社があり5社体制だ。しかしこの分離で配達担当者が貯金の出し入れや簡易保険の満期保険金を手渡すなどのサービスは不可能になっていた。これは不便だという声が利用者から多く上がった。
そこで、改正案では「郵便局会社」と「郵便事業会社」はやっぱり統合しようということになった。つまり4社体制になる。
次に株の保有の問題。とりあえず民営化した後も、日本郵政の株式は3分の1超は国が保有し、それ以外を市場で売却することになっていた。これについては改正案でも変わらない。
ただし、前述したが、郵政民営化ではゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式全部を2017年9月までに処分することが義務づけられていた。これが郵政民営化法改正案では「全株処分を目指す」という表現に変わり、期限も明示しないことになった。
つまり、日本郵政がこれら2社の株式を保有したままで居られる余地が儲けられたわけだ。これが米国が噛みついた部分であり、自民党の造反組が「改革の後退だ」と反発している部分だ。
ところで何故、今、郵政民営化法改正案なのか。
実は突飛なようだが、東日本大震災が関係している。復興財源の確保が狙いだ。
これについては政府も民自公も同じ考えを持っている。つまり、
「約10兆円の純資産を持つ日本郵政株を3分の2弱売れば、利益は6兆円以上になるではないか。」
というものだ。
しかしその額には満たないと言うのが一般的な見方だ。何しろ郵便事業は慢性的な赤字だし、貯金や保険契約も減少している。つまり取らぬ狸の皮算用だ。
しかし改正案だろう?と思われるかもしれない。
実はそうではない。2009年に成立した株式売却凍結法によって、日本郵政の株式の売却はできない状態になっていたのだ。
それで郵政民営化法改正案を通してしまえば、売却が可能になる。
また、郵政民営化法改正案では、金融2社が新規事業進出できる規定も潜り込ませることに成功している。但し、日本郵政が金融2社の株式の半分以上を売却することが条件になっている。
ではその新規事業とは何か。住宅ローンや癌保険だ。これらに進出させることで、貯金や保険契約の現象を挽回させ、経営状況を改善しようということだ。
さて、郵政民営化法改正案については特に反対している人達の意見が全く逆の根拠に依っていることが、議論を分かりにくくしている。
つまり、郵政民営化法改正案は、郵政民営化を骨抜きにしたからけしからん、と反発している人達と、逆に、郵政民営化法改正案は、郵政民営化を既成事実化するカモフラージュだからけしからん、という真逆の根拠を持つ人達が居るのだ。
そのため、単に郵政民営化法改正案に反対、といっても、その理由は全く対極にある。
まず郵政民営化法改正案が、郵政民営化を骨抜きにしたという意見。
この意見を主張する人達は、そもそも郵政民営化を主張していた自民党が、見直しに寝返ったのは何故か、と問いかける。
その答えは、連立を組んでいる公明党に妥協したのでは無いかと言われている。
前述した通り、公明党は東日本大震災の復興財源として、郵政株売却を主張した。それを実現するためには、株式売却凍結法が邪魔だ。そいこで、郵政民営化法改正案が提案された。
これに解散総選挙で公明党と協力関係を維持したい自民党が乗った、という話だ。
そもそも自民党にとっては、郵政の特定局長会は、集票マシンだった。それが小泉純一郎元首相の郵政選挙以降は国民新党支持に回ってしまっていた。
しかし造反議員の自民党復党が始まると、郵政の特定局長会は再びパーティー券の大口購入などで自民党支持の意向を臭わせ始めたのだという。
票が集まるのであれば、と自民党は方針を変えたとも言われている。
その結果、日本郵政は、親方日の丸体質が抜けず、またユニバーサル・サービスを維持するためという理由で、赤字体質が改善されなくなってしまった、というのがこの反対派の考えだ。
さらに、日本郵政という巨大な金融機関を国の傘下に置き続けることで、日本の金融市場の公平性が保たれないと憤っている。
さて、一方、同じ郵政民営化法改正案に反対していても、それがカモフラージュされた郵政民営化の強行突破だと憤る人達が居る。
この人々は、郵政民営化を「郵政英米化」であり、売国政策であるとして糾弾している。
つまり、TPPで米国が狙っている日本の金融市場の米化であり、ゆうちょ銀行やかんぽ生命を外資に差し出す行為だというわけだ。
それが、改正案というカモフラージュを施すことで衆院を通してしまったという。
さらにご丁寧に、このカモフラージュが見破られないために、米国の主導の下、マスコミもこぞって北朝鮮のミサイル問題で紙面を埋めてしまっているというのだ。
さて、真相はどちらか。あるいは別の目論見があるのか。
結局ここまで書いてみたが、相変わらず自分なりの結論が出せずに終わってしまった。