5日、約60カ国の外交・国防担当閣僚らが出席した国連安全保障理事会のミュンヘン安全保障会議が終了した。
この日、シリアのアサド政権に対して、暴力停止などを求める決議案が採択されるよう参加国が協議したが、常任理事国であるロシアと中国が拒否権を行使し、否決された。
そのことに対し、国際社会は、ロシア・中国を非難している。
5日に、ミュンヘン会議で演説を行ったノベール平和賞受賞者であるイエメンの女性民主化活動家のタワックル・カルマン氏もロシアと中国を非難した。
「ロシアと中国は、アサド大統領の犯罪的政権を支えている」
また、討議中には、チュニジアのジェバリ首相が提案した。
「シリアを外交的に孤立させるため、まずアラブ諸国駐在のシリア大使を全て追放すべきだ」
トルコは、シリアの隣国として、弾圧から逃れようとする市民の保護について受け入れを表明している。トルコのダウトオール外相は語った。
「アサド政権の弾圧から逃れる人々を、トルコは全て受け入れる。それが隣国としての人道的責任だ」
国際社会はシリアのアサド政権の弾圧に厳しい非難を浴びせているのだ。
前日の4日、クリントン米国務長官とラブロフ露外相は協議を行ったが、調整はできなかった。協議後にクリントン米国務長官は危機感を語った。
「(決議案)否決によって、さらなる流血と内戦の懸念が拡大している」
さらに翌日、訪問先のブルガリアでは、制裁を強化することを訴えた。
「アサド政権の資金源と武器を枯渇させなくてはならない」
また、憤りも隠さなかった。
「国際社会はシリアの平和を支えるのか、それとも暴力と虐殺の共犯者になるのか」
暗に、ロシアと中国がアサド政権に武器を販売していることを非難したのだろう。
サルコジ仏大統領もロシアと中国の拒否権行使に対して非難の声明を出している。
「(アサド政権による)非情な政策の続行を後押しした」
また、ヘイグ英外相も同様に声明を出した。
「ロシアと中国は大きな過ちを犯した」
何しろロシアと中国によるシリア非難決議採択への拒否権行使は、初めてではない。昨年の10月にも行使しているのだ。それ以降、シリアの市民弾圧は過激さを増している。非難は強まって当然だ。
決議直前、オバマ米大統領は、採決を促す声明を出していた。アサド政権は正当性を失ったと主張し、
「国際社会はアサド大統領の「殺人マシン」からシリア国民を守らなければならない」
と訴えていた。しかし、拒否された。
裁決後、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、国連が暴力停止の機会を失ったことを述べた。
「安保理が暴力の即時停止を求めた決議案に合意できなかったことは、国連の役割を顧みないことになる」
また、米国のライス国連大使も国連の安全保障機能が作動しなかったことに失望したとコメントした。
「シリア国民は再び安保理と国際社会に見捨てられた」
そして、その理由として、ロシアがシリアへ武器を輸出していることを示した。
ロシア側の言い分は、チュルキン大使が語った。
「決議案には事態が正しく反映されていなかった」
また、中国側も李保東大使が言い分を述べた。
「決議案の文言は問題を複雑化するばかりだ」
この間も、シリアでは人が死んでいる。シリア反体制派によると、3日から4日にかけて、中部ホムスでは政権側の爆撃や銃撃で、市民が321人が死亡しているとしている。負傷者は数百人のオーダーだ。サダト政権による市民の殺戮が止まらない。リビアを思い出す。
さて、どうなるのか。
アラブ連盟はシリアの政権移行プランを採択していた。その上で、アサド大統領に退陣を迫っていたが、安保理の後ろ盾を失ってしまった形になった。決議案にはアラブ連盟の政権移行プランを全面的に支持する、という文面が盛り込まれていたからだ。
ただ、この文面に対し、ロシア側が修正を求めていた。アサド大統領の退陣を迫ることになる、というのが理由だ。
そのため、アサド政権による市民への武力弾圧はよりいっそう過激になるものと見られている。まさか、国際社会はそれを待っているのだろうか。つまり、武力による鎮圧のきっかけが欲しいのだろうか。
国連安全保障理事会の機能不全と言われるだろうか。
シリアは事実上内戦と言える。国連の見積もりでは、昨年の3月以来、既に5000人もの死者がでているのだ。
このところ連続している民主化運動の特長の一つだが、シリアもアサド親子(前大統領はアサド大統領の父親)の独裁は40年を超えた。
実はシリアはソ連時代からロシアと緊密な関係にある。というより、ロシアの武器輸出先としては得意先だ。また、ロシア軍の地中海沿岸での重要な補給拠点がシリアでもある。
ロシアは7日に、ラブロフ露外相をシリアに派遣し、アサド大統領と会談させる。ロシアとしては、ことを荒げたくないので、アサド大統領が政権を失わずに済む方法を伝授するだろうが、うまくいくかどうか。
また、ロシアにとってのシリア問題は、3月4日の大統領選にも影響があると見ていると憶測されている。
再選を狙うプーチン首相は、保守票の取り込みに躍起になっている。特にロシアの非政府組織(NGO)を、欧米が利用して内政干渉をしていると訴えている。その折り、中東問題で欧米に対して屈する形にはできないという見方だ。
また、これはムードの問題だが、シリアの民主化運動が実を結ぶことになってしまうと、ロシアでも頻発している民主化運動に油を注ぐことになる危険を、プーチン首相は感じているに違いない。
少なくとも、ロシアは大統領選までは、シリア問題を現状維持にしておきたいのではないか。
以下、これまでのシリア関係の投稿記事です。ご参照ください。
『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html
『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html
『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html
『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html
『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html
『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html