7月23日に発生した中国浙江省温州市での中国高速鉄道の追突事故の現場が世界中に報道されたが、この映像などから躍進する中国という国の実態が垣間見えたのではないだろうか。
映像だけでも何度か驚かされた。
事故自体も驚くべき内容だが、特に世界の目を引いたのは、後処理だろう。
まず、まだ人命救助が完遂した訳でもない時期に、地面から垂直な状態になっている車両を勢いよく倒し、車両が地面に激しくたたきつけられた映像に驚いた。
まだ生存者が中に居たかもしれない。遺体の状態も確認すれば事故の状況を知る手がかりになったかもしれない。
また、激しく地面にたたきつけることで、事故の原因究明に役立ったかもしれない機器類が破損してしまっただろう。
ということは、この段階で事故処理を行っている現場スタッフには、すでに人命を尊ぶ気持ちも、事故原因を調査するための証拠確保の気持ちもなかったということだ。あるいはそのような指導がなされていない。
通常、このような危険な状態にある(垂直になったままの)車両を安全な状態に移動するのであれば、まず固定して人命救助や捜索をきっちり行い、それでもクレーン車などによりワイヤーで吊り上げ、静かにそっと地面に横たえるものだ。
そして世界をあきれさせたのは、追突した車両の先端を、事故現場の畑に埋めてしまったことだ。現場に隣接する畑を重機で掘り起こすという行為の乱暴さにも驚いたが、そこに事故車両を転がして埋めてしまうなど、世界中の誰もが予想しなかった行動だろう。
誰がどう見ても、証拠隠滅だ。いや、世界中に放映されているカメラの前で白昼堂々とおこなっているので、「隠滅」という言葉もそぐわない。野蛮で幼稚な行動としか言いようがなかった。このときは文字通り開いた口がふさがらなかった。
しかも事故の原因究明も始まっていない段階で、事故は「復旧した」として徐行しながらも運行が始まってしまった。
このとき、遺族の一部からは、まだ自分たちの家族が見つかっていない、遺体も生存も確認できていな、と悲痛な声も上がっていたのだ。
さらにあきれたのは、車両を埋めたことに対して国内外からの非難が激しく、慌てて車両を掘り出した映像を見ていたら、近所の人々が一緒に車両の部品を掘り出しているではないか。そして掘り出した部品をおのおの持ち帰り始めていた。
現場の作業員が「こら、勝手に持って行くな!」と注意すると近所の人々は驚くべき価値観で回答した。
「これらは俺が拾った物だ。俺が拾ったんだから、俺の物だ!」
──はぁ?
そう、この国では所有の概念が我々とは異なるらしい。所有の概念が明確にならないと、資本主義の発展は困難だ(と故小室直樹先生がおっしゃっていた)。
テレビ局のレポーターが、掘り出した部品を持ち帰る近所の一人を捕まえて訪ねた。
「掘り出した部品をどうするのか?」
「売るんだよ。金属だからね。金になるだろう。」
そして笑った。
どんな国なのか。そしてどんな国民なのか。世界中がよその時代かよその惑星を見ているような違和感に襲われたことだろう。
そして28日、政府調査団が温州市で開いた開いた初会議で、ようやく現段階での追突事故原因についての発表が行われた。
その発表によると、鉄道当局は温州南駅の信号設備に設計上の重大な欠陥があることを認めた。落雷により故障が発生した際、赤信号を送るべき区間に青信号を発信したのだという。
また、上海鉄道局長は、このたびの事故が「人災」であることを認め、これまで主張していた「天災」を否定した。
ちなみに、どこかの国の原発事故は、明らかに「人災」だが、関係者は未だに「天災」を強調している。中国と変わらないか…。
この日、温家宝首相は温州市に入り、犠牲者の遺族と対面した。また、負傷者らを見舞った。そして事故現場で海外のメディアの参加を許可して会見を行い、海外へのイメージダウンを払拭することに勤めた。何しろこのままでは鉄道の輸出にダメージを与えてしまう。いや、鉄道だけではない、「中国製品は危ない。」「中国メーカーは責任を持たない。」「中国メーカーは不良品を埋めてしまう。」などと世界中で言われてしまう。
温家宝首相は中国人民に向けて話す振りをしながら、外国メディアを意識して語った。
「調査のすべての過程を公開し、社会の監督を受ける」
「厳正に責任者を処分する」
「事故は安全が第一だということを気付かせてくれた」
特に最後の言葉は、経済発展を優先するばかりで安全面をおろそかにしてきたことを認めたようなニュアンスも含まれている。
さて、100人近い遺族達が激しい抗議活動をしていたが、この28日にぱったりと鎮まった、と言っても良いくらいにおとなしくなり始めた。
そして翌29日にはほとんどの抗議活動は無くなっていた。
金の力だ。
中国人ほど金に汚い──もとい、執着する民族はない。死者を送るときにも現金をあの世の持たせるために焼く。しかも本物の現金ではもったいないので、「紙銭」というものを死者に持たせる。
あの世も金次第だと考えているのだ。だから賄賂など、ちょっとよそ見した隙にいくらでも横行する。
遺族達がすっかりおとなしくなったのは、鉄道省が賠償金を50万元からさらに上乗せして90万元(1000万円を超える)に引き上げたためだ。
しかも中国人の性質は中国人こそが良く知っている。鉄道省は個別交渉を行った。
しかも現地の弁護士たちには通達が出された。
「遺族の弁護を引き受けないように」
との内容だ。これまた世界中が驚いたことだろう。何のために弁護士が居るのかさっぱり分からない。
このことを問われた当局並びに弁護士協会(おい、弁護士がわもかよ)が言いつくろった。
「誤りなく質の高い弁護を提供するための指導だった」
もはや自分たちの弁護をするために、その技能(といっても詭弁だが)は活用するしかないらしい。
このような手段を使って、事故を収束させようとしている。