2011年02月12日

エジプトの、新たな混乱が始まるのか。

11日、エジプト国民にとって悲願だったムバラク大統領の辞任が決定したという情報が流れた。

共和制になって以来、ナセル、サダトと伝統と化していた大統領の終身制もここで終焉を迎えた。

約半月にわたりデモを続けた民衆は歓喜した。しかし混乱はこれからであろう。いったいどのような勢力がこの後のエジプトを牽引するのか。それがまだ見えない。

11日の夜、国営テレビを通じてスレイマン副大統領が発表した。

「国内の厳しい状況を受け、ムバラク大統領は退くことを決断した」

そして大統領の権限が軍の最高評議会に移譲されたと続けた。エジプトの場合、大統領の権限は立法、行政・司法の、所謂日本では分立している三権に対して、独裁的な権限を有している。それをいま、軍の最高評議会が有したという。

但し軍の報道官は続けて声明を発している。「権限の移譲は、あくまで一時的なもので、新しい体制づくりに向けた対応は決まりしだい発表する」と。

この発表が誠実に実行されれば、ひとまずは治安上は安心と言える。また、これまでムバラク大統領を支援してきた米国にとっても、同じく支援してきが軍部が暫定政権の座に居ると言うことは、ひとまず安心しているかもしれない。

しかし、次の政権を誰が担うのか。それが重要である。

ところでムバラク大統領は、亡命まではしなかったようだ。ともかくも家族を連れてカイロを脱出した。

どうやらシナイ半島南部の保養地であるシャルムエルシェイクに向かったという。

さすがに追い詰められた国民が暴徒化する前に、手を打ったことになった。

しかし、ムバラク元大統領が国内に居る以上、ムバラク支持派はまだ活動を続ける可能性が残ったとも言える。

しかし大統領が国民のデモにより退陣したということでは、チュニジアのジャスミン革命に続く国民の勝利としてアラブ諸国に伝わるであろう。ここに火種が残る。

周辺諸国の独裁的権力をふるう者たちは、針の筵の上だ。

一方オバマ大統領はムバラク元大統領の辞任の報に接すると、とりあえず表向きは歓迎の意を示した。

「今日はエジプト国民のものだ」

オバマ大統領は続ける。

「エジプト国民は真の民主主義以外は勝利を収めないことを明確に示した」

まぁ、きれい事というやつだ。しかし、そっと次の言葉を添えている。

「この新たな章は困難を伴うものの…。」

箍が外れたエジプトでは、これまで弾圧されてきたイスラム原理主義が活発に活動するであろう。それを米国や親米のイスラエルやサウジアラビア、アラブ首長国連邦は注目しているはずだ。

すでに今回のデモでは、最大野党勢力とさえるムスリム同胞団がかなり影響力を持っていた。

オバマ大統領は、この後エジプトの政権が、過激にならないよう釘を刺す言葉も続けた。

「歴史の弓を引いたのはテロでもなく容赦ない殺人でもなく、暴力を用いない道義的な力だ」

だからこれからも穏健派で居てくれよ、ということだろう。

ともかくも、エジプトの数十万人の群衆はお祭り気分である。楽観的と言えるが、これまでの苦労を思えばこれからの苦労など、希望があるだけましだ、ということかもしれない。

それでも心配なオバマ大統領は、暫定政権であるエジプト軍に対し、「国民が求める形の民主化を実現する責務がある」ことを念押しし、「自由で公正な選挙への明確な道筋」を付けることを強調している。

エジプトの憲法では、大統領が不在となった場合、60日以内の大統領選を定めている。軍の最高評議会は「国民が求める正統な政府に取って代わるつもりはない」と発表している以上、内乱にでもならない限り軍が政権を奪取することはなさそうだ。

そして事実上の大統領代行となったムハンマド・フセイン・タンタウィ軍最高評議会主宰は、「国民の要望を実現するための改革推進策を策定中で、追って発表する」と伝えた。

ムハンマド・フセイン・タンタウィ軍最高評議会主宰は、歴戦の軍人であり司令官である。

この混乱を手早く収めることができるだろうか。

2/2に投稿した『ムバラク大統領の退陣は、新たな対立を産む可能性がある』で、エジプトの次の政権を担う勢力として、軍、ムスリム同胞団などの野党、モハメド・エルバラダイ前原子力機関事務局長を上げた。

これらは、反米と親米に分けられる。ともかくこのうち軍(親米)は、あくまで暫定政権であることを表明している。

しかし、軍がムスリム同胞団などのイスラム原理主義に政権を移譲することも考えにくい。

米国はモハメド・エルバラダイ前原子力機関事務局長の様な親米家が政権の座に座ることを望んで居るであろうが、表だって言うことはできない。

では肝心の国民は誰を支持しているのか。

エジプトにはイスラム教徒、キリスト教徒が居る。民族的にはアラブ人が主流であり、そのほかには遊牧民のベドウィン、ベルベル人、ヌビア人、アルメニア人、ローマ人、トルコ人、ギリシア人など多彩だ。

しかしその9割がイスラム教徒であることや、貧困層の支持が厚いということを考えると、ムスリム同胞団が躍進する可能性もある。

するとやっかいなことに、親米の軍部としては、最大野党で国民の支持が厚いムスリム同胞団と対立する可能性もあるのではないか。

ともかく、エジプトの混乱は、一端沈静化するものの、再び政権争いが始まる可能性がある。

ただし、ムスリム同胞団は、イスラム原理主義の間では穏健派であり、過激な思想を排除する活動も続けてきている。

そういう意味では民主的な手続きによる政権争いも期待できるかもしれない。

以下、参考までに、これまでこのブログで投稿したエジプト関係の記事です。


『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第一部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183082938.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第二部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183086820.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第三部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183150487.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第四部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183159468.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第五部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183236111.html

『エジプト争乱に指導者が現れるか』(1/31)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183328003.html

『ムバラク大統領の退陣は、新たな対立を産む可能性がある』(2/2)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183849084.html

『デモの長期化はムバラクに有利か、反ムバラクに有利か』(2/5)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/184439695.html

『ムバラク大統領は、権力亡者となり暴走しているのか。後ろ盾の米国にも読めず。』(2/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/185457860.html


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