2011年02月05日

デモの長期化はムバラクに有利か、反ムバラクに有利か

5日、「追放の金曜日」と題したエジプト全土でのデモは、ムバラク大統領の退陣を促すことなく空しく夜が明けてしまった。

それでも数千の人々がカイロ中心のタハリール広場に集まり、デモを続けた。

しかし、デモは既に12日目に入っている。本来であれば、一気に盛り上げ、大きな圧力をムバラク大統領に与え、そして短期間で退陣に持ち込めればデモは成果をを得られたが、ここにきて長期化の様相を見せ始めた。

デモが長期化すると、勿論不安定な状況が長引くのだが、ムバラク大統領とは違い、庶民は長く政治活動を行い続ける財力も体力も無いはずだ。

勿論、多くの人々が後退で入れ替わり立ち替わりデモ活動を行うことも可能だが、今のところそのようなシステマチックな運動には至っていないように見える。

デモを煽る反ムバラク勢力として野党勢力があるが、やはりデモの頭数は庶民が支えている。

しかし長期化すると、庶民も日々の糧を得る活動に支障を来し、また、何よりも心が萎えてくる可能性がある。

勿論、ムスリム同胞団や、やや影を薄くしているIAEA前事務局長のモハメド・エルバラダイといった反ムバラク勢力が、萎えそうな国民を何度でも煽る可能性はある。

しかしどこまでこの勢いを維持することができるだろうか。

ムバラク大統領は、ともかくデモの沈静化を待っている節もある。

ただ、後ろ盾となっている米国からは、オバマ大統領の早期退陣を促すようなメッセージが届いた。すなわち、ムバラク大統領に対し、自問すべきだと語りかけた。

「変革の時期を乗り切るための『遺産』をどう残すかだ」

これに対し、シャフィク首相は異を唱えた。

「大統領は国家安全保障の源だ」

確かに、これまではそうだった。米国という後ろ盾が保障していたと言える。

しかし、軍部の離反を危惧しているため、国民に対して手荒なことはできないので、

「タハリール広場で、デモ隊鎮圧のための実力行使はしない」

とも述べている。

そうこうしている内に、国民を煽る過激な動きも出ている。つまり、国外への影響を広げようとしている勢力が活動を始めたことだ。

5日の朝、エジプト北東部のアリーシュで、天然ガスのパイプラインが爆破された。

このパイプラインは、イスラエルに向かっている。

とりあえずエジプト国営テレビでは、この爆破をテロリストによる攻撃であると報じたが、実態はつかめていない。

あるいはAFP通信ではこのパイプラインはヨルダンに向かっていると報じている。既に昼までには制御可能な状態になったとも伝えた。

イスラエルに向かっているパイプラインであれば、イスラエルにとっては動揺するに足る爆破だ。何しろイスラエルの天然ガス需要の40%はエジプトからの輸入だからだ。

実は反体制デモの最中、イスラム原理主義者たちは、「イスラエル向けのガスパイプラインを爆破せよ」と叫んでいた。

既にイスラエルでは、ムバラク大統領が退陣した後に、エジプトがイスラム勢力に支配されることを恐れている。それはすぐにイスラエルの孤立につながるからだ。

そのため、この爆破は、デモ騒ぎに乗じたイスラム系過激は組織の仕業である可能性も残されている。

ところでムバラク大統領の動きはどうか。

ムバラク大統領は、自分の地位が揺らいでいないことをアピールするためか、シャフィク首相、財務相、中央銀行総裁らを会議に招集した。職務は遂行している、という姿だ。また、9月の任期満了まで退陣する意思がないことも示している。

また、政府は現在休業してしまっている銀行に、6日から業務を再開するように促している。

事態は沈静化にむかっているのだ、というアピールだろう。国民がデモを継続する経済力が無いことを知ってのことだろうか。

しかし、困窮することで却って過激になる可能性もある。

事態はなお、余談を許さない状況にある。


このところ、エジプトについて複数の投稿を続けており、なにやらシリーズエジプト、といった状態になっている。
以下、ご参考までにURLを掲載しておいた。下に行くほど最近の投稿となっている。

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第一部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183082938.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第二部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183086820.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第三部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183150487.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第四部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183159468.html

『エジプト全土にムバラク大統領退陣要求デモの背景:第五部』
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183236111.html

『エジプト争乱に指導者が現れるか』1/31
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183328003.html

『ムバラク大統領の退陣は、新たな対立を産む可能性がある』2/2
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/183849084.html



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