2014年03月17日
クリミア自治共和国のロシア編入に、欧米(日)が反対する資格はないだろうに
3月16日、クリミア自治共和国では、ロシアへの編入の是非を問う住民投票が行われた。見通しでは圧倒的な多数で、ロシアへの編入が承認されるとみられている。
しかし欧米諸国はこの住民投票を違法だと決めつけた。彼らに違法だなどと言う資格は無いはずだが、このことは後述する。
クリミア自治共和国のアクショノフ首相は、中心都市であるシンフェロポリのレーニン広場で高々と宣言している。
「われわれは故国に戻る。クリミアはロシアだ」
その宣言を聞いて広場に集まっていた群衆は歓声を上げてロシア国旗を振った。
しかしオバマ米大統領は同日、ロシアのプーチン大統領との電話会談でこの事態を非難した。オバマ大統領の言い分では、クリミア自治共和国での住民投票はウクライナ憲法に違反しているだけで無く、ロシアの軍事介入の脅威の下で行われた、と。
従って、国際社会はこの住民投票の結果を認めないと主張した。
それだけではない。ロシアがウクライナの主権と領土を侵害しているとまで言い放った。
全くもって滅茶苦茶な言いがかりである。
電話会談は大統領同士だけでなく、米国のケリー国務長官とロシアのラブロフ外相との間でも行われた。
ケリー国務長官も主張は同じだ。
さらにEU(欧州連合)も同日に「強い非難」を表明した。それだけではない、米国同様にロシアへの制裁を検討していることも明らかにした。
EUは17日の外相理事会でロシア政府関係者への追加制裁を決定する方針だ。具体的には、ロシア政府関係者へのEU内の資産凍結と渡航禁止などになると見られる。
オバマ大統領はプーチン大統領に国際監視団の受け入れを求めた。
「ロシアとウクライナ国民にお互いに利があるような外交的解決の道が残されている」(日本経済新聞:2014/3/17)
米ホワイトハウスも声明を出している。
「ロシアの軍事介入による暴力と威嚇のもとで実施された選挙結果を国際社会は承認しない。ウクライナの主権と領土保全に賛同するよう国際社会すべてに要請する」(同上)
ウクライナの主権などと、滅茶苦茶なことを言っている。クーデター政権を認めると言うことで有り、民主主義を否定することになるにもかかわらずだ。
EUのファンロンパイ大統領とバローゾ委員長もデタラメを語っている。
「ウクライナの主権と領土の統一性に対する理不尽な侵害を強く非難する」(同上)
当然米国に追随するのが国是の日本も、欧米のデタラメに付き合うしかない。菅義偉官房長官は17日に記者会見で言及した。
「(クリミア自治共和国の住民投票について)わが国として承認しない」(ロイター:2014/3/17)
「ロシアが国際法を完全に順守し、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重し、クリミアの併合に踏み出さないように強く求める」(同上)
ああ、せっかく良いムードになっていた日露関係は、これで振り出しにもどるであろう。北方領土は遠のいた。
日本はともかく、オバマ大統領は強気の姿勢を見せねばならない状況だ。何しろ支持率が低いまま今年の秋に行われる中間選挙を迎える訳にはいかない。強い大統領を演じねばならない。全く迷惑な人達だ。
そもそもウクライナの法がどうのこうのと言っているが、ウクライナの現政権は、民主主義によって選ばれた大統領を追放したクーデター政権であり暫定政権だ。
つまり、現ウクライナ政権には正統性は無い。むしろ民主主義の破壊者達による政権だ。これを欧米は支持していることになる。
しかもロシアの介入は、ウクライナで民主的に選ばれたヤヌコビッチ大統領(まだ辞任の意志を示していないので大統領と書く)がロシアに支援要請している以上、ロシアに大義がある。
従って、ウクライナのことについて、欧米が口出ししていること自体がデタラメなのだ。
日本は声明だけ米国に合わせ、実際のロシアへの制裁は行わない方が良いのだが…。
2014年03月04日
昆明の無差別殺傷事件犯人拘束。次は何処だ?
3月3日、中国の公安省の発表に依れば、1日に中国雲南省昆明市内の鉄道駅で刃物で武装した集団が無差別に170人以上を殺傷した事件の容疑者3人が警察によって拘束された。
犯行グループは8人で、既に4人は警察によって現場で射殺されており、1人も先に拘束されていたので、生存者全員が拘束されたことになる。
当局は既にこの事件を新疆ウイグル自治区の独立勢力テロリストの犯行であると断定した。まだたいして取り調べが行われていないにもかかわらずだ。
まぁ、おそらくそうであろう。しかし慎重さがない。
それにしても「また」だ。昨年10月にも第18期中央委員会第3回総会(いわゆる3中総会)直前に北京の天安門前で車両自爆テロが起きている。
今回は3月5日の全国人民代表大会(いわゆる全人代)直前だ。
犯行グループがどのような素性であれ、この事件は習近平国家主席指導部に対する貧富の拡大や少数民族への弾圧を不満とする者たちの声だと受け取られるであろう。
そうであれば、今後同様の犯行は繰り返されるであろう。
この度の昆明駅での無差別殺傷事件では、死者が29人以上、重軽傷者は143人以上と言われている。
犯行グループは全員が黒色の服と黒色の覆面を着用していたらしい。40センチから70センチの刃渡りがある刃物を使って、人々を襲った。
それにしても、現場は1日の夜の内に犯行の跡形も無く清掃されていたという。現場の検証は十分に行われたのだろうか。当局のこの素早さは異様だ。何かを隠蔽しようとしたとしか思えない。まぁ、鉄道事故が起きれば人もろとも車両を埋めてしまう国だから、何が起きても不思議では無いが。
評論家の宮崎正弘氏は犯行グループを次の様に推測している。
「組織化されていることと、武装状態からみると、ウイグル独立派の犯行と考えるのが妥当だろう。独立派は非暴力的と暴力的な組織の2つがあり、16くらいセクトがあるが、イスタンブールやミュンヘンなどに拠点を置く主流派ではなく、非主流派の東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)らの関係が疑われる」(zakzak:2014/3/3)
また同氏は、習近平国家主席指導部も3月5日の全国人民代表大会前で警戒していたはずだと言う。
「天安門前で車両自爆テロがあったことを受け、北京や主要都市では厳重な警備を敷いてきた。ただ、昆明は比較的警備が薄かった。そこがねらわれたが、結果的に防ぐことができず、習指導部は赤っ恥をかかされたことになる。この事件で、ウイグル独立派に対する弾圧は一層激しくなり、テロはますます繰り返されるだろう」(同上)
一方、3月4日に、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長は、この事件で中国政府がウイグル族を悪者に仕立て上げないようにと危惧している。
「中国がこの事件に理性的に対処し、ウイグル人を敵のように扱わないことが大事だ」(ニューズウィーク日本版:2014/3/4)
しかし既に習近平国家主席指導部はこの犯行をウイグル自治区の過激派によるテロだと断定している。
ウイグル族への弾圧は強化されるであろう。
2014年03月03日
ウクライナへのロシア軍事介入は日本にとって頭が痛い。北方領土交渉と尖閣問題を秤に掛けられるか
3月3日、ロシアはウクライナへの軍事介入を決め、欧米諸国はこれを非難した。
さて、日本はいつものように、欧米諸国に歩調を合わせるしか無いのだが、頭が痛い。
何しろ日露は既に安倍晋三首相とプーチン大統領が首脳会談を5回も重ねており、日露関係は良い印象を醸し出していた。北方領土問題についても、前進する可能性が見えていたようにも見える。
一方、日本は中国との間に尖閣問題を抱えているため、中国には国際法の遵守を求めている。その態度は、この度のロシアのウクライナへの軍事介入を認める訳にはいかないという矛盾回避の態度を示さねばならなくなったであろう。
その結果、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国の首脳は揃って、あ、日本も渋々だろうが合わせて、ロシアのウクライナへの軍事介入を非難した。つまりG7がロシアを非難する共同声明を発表した。
「ウクライナの主権と領土の統一を侵害しているのは明らか」(CNN:2014/3/3)
しかし前日夜には岸田文雄外相が批判色の弱い以下の様な表現だったのだ。
「地域の緊張を高め、国際社会の平和と安定を損ないかねないものであり、深刻な懸念と憂慮を表明する」(ロイター:2014/3/3)
そしてG7は6月に予定されていたロシアのソチで開催されるG8首脳会議の準備を注視することにした。
まったく日本は頭が痛い。中国は頻繁に尖閣諸島周辺海域に出没している。
これに対して日本側は「『力』を背景とした現状変更の試みは容認できない」と主張している立場上、ロシアのウクライナ、とりわけクリミア半島への軍事介入は容認できない立場でもある。
しかし日露関係を悪化させたくはないので、3日になると、G7の表明とは別途、日本独自の見解を出して見せた。菅義偉官房長官は会見で述べた。
「すべての当事者が自制と責任をもって慎重に行動し、国際法の完全な遵守と、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することを強く求める」
日本の困惑を伝えるロシアへのメッセージだろう。
しかしロシアは既に地上軍と海軍併せて6000人をクリミア半島に投入した。
ウクライナ単独ではとてもロシアに対抗できない。2012年のロシア軍人員は84万5000人だ。対してウクライナ軍は13万人である。防衛費もロシア軍が780億ドルであるのに対し、ウクライナは16億ドル。
しかも決定的にウクライナが背負っている問題は、現在の新政権に正統性がないということだ。何しろ民主的に選ばれたヤヌコビッチ大統領をクーデターで追放した政権だからだ。
はたしてそんな政権に軍隊を掌握できるのか? と思ったら、なんとウクライナ海軍トップのベレゾフスキー司令官が寝返った。いや、寝返ったという表現は正しいのだろうか。
3月1日に、ウクライナ新政権のトゥルチノフ大統領代行から司令官を任命されたばかりのベレゾフスキー司令官が、翌日には親ロシア派のクリミア自治共和国首相に忠誠を宣誓してしまった。
これでウクライナ新政権は海軍を失ってしまった。
ベレゾフスキー司令官はロシア軍らしき武装勢力がクリミア半島南部セバストポリの海軍参謀本部を包囲すると、あっさりと無抵抗で武装解除に応じたのだ。
ロシア軍は着実にクリミア半島を実効支配しつつある。
慌ててケリー米国務長官がウクライナの首都キエフを訪れ、新政府と会談することになった。しかも米国は新政府を支持したが、矛盾している。
米国が支持した新政府は、民主的に選ばれたのではなく、クーデター政権だからだ。
しかしケリー米国務長官は2日にテレビで表明した。
「(欧州の同盟国と協力し)ロシアを経済的に孤立させる」(中日新聞:2014/3/3)
具体的には、資産凍結、ビザ発給停止、貿易制限などの制裁になるだろう。
しかし米国は軍事介入は否定している。
「目的はウクライナの領土主権を守ることだ。米国の軍事介入が緊張緩和に効果的だとは思わない」(同上)
やや腰が引けている感じがするが、やはり新政府の正統性がないからだろうか。
一方、もたついているG7に対し、ロシアが先に制裁を始めた。天然ガス供給で圧力を掛ける姿勢を示したのだ。
さぁ、EUは焦る。EUはガス資源をロシアに依存すること甚だしいのだ。しかもウクライナ経由のパイプラインで供給を受けている。
これではロシアが先にEUの経済活動を揺さぶることができてしまうのだ。
となると、EUも一枚岩にはなれないかもしれない。
そうこうするうちに、ロシア軍らしき武装部隊がクリミア半島でのウクライナ軍の武装解除を進めており、クリミア自治共和国(親ロシア)の指導者側につくように要請している。
これに対してウクライナ新政府は「宣戦布告だ」と非難しているが、彼らは正統性も無く、軍の掌握も怪しい状態だ。
実際ドイツも立場が弱い。
前述の通り、ケリー米国務長官はロシアへの経済制裁を訴え、G8からも除外する用意があると威嚇したが、ドイツのシュタインマイヤー外相はこれをやんわりと牽制した。
「G8は西側がロシアと直接話せる唯一の枠組み」(zakzak:2014/3/3)
また、米、カナダ、フランス、英の4カ国は6月にソチで開催予定のG8首脳会談を見合わせる方針を決定したが、実は日、独、伊(おお、懐かしい組み合わせ?)はまだ態度を決めかねている。
ウクライナはどうなるのか。
少なくともクリミア自治共和国はウクライナから分離独立するのではないか。クリミア自治共和国はロシア系住民が多数だからだ。その後、プーチン大統領はロシアに併合するかもしれない。
今のところ、米国は弱腰だし、G7も一枚岩では無い。EUはエネルギー制裁を受けそうだ。
プーチン大統領はウクライナ全土を欲していないとも思える。既にドイツのメルケル首相と電話会談を行い、ウクライナ問題での対話開始のための連絡グループを設けることで同意した。
ドイツの発表では、「政治対話開始に向け、欧州安全保障協力機構(OSCE)などが主導する事実調査団と連絡グループを直ちに設立するというメルケル首相の提案」に対し、プーチン大統領が「受け入れた」としている。(Bloomberg.co.jp:2014/3/3)
ロシアのカラシン外務次官も2日のテレビインタビューで戦争する気は無いと答えている。
「国際法に従って国内問題の解決に乗り出せば状況は正常化し得る」(Bloomberg.co.jp:2014/3/3)