9日、ケリー米国務長官は、シリアのアサド大統領が来週中に、全ての化学兵器を国際社会に引き渡せば、米国からの攻撃を回避できると述べた。これは、ヘイグ英外相との共同記者会見でのことだ。
しかしこの提案は、決してアサド政権に対する実質的な申し出ではないとも付け加えた。
つまり、ケリー国務長官はアサド政権が実行できないであろうと言っているのだ。
「来週中に滞りなく、国際社会にすべての化学兵器を引き渡し、保有している化学兵器の全容を明らかにすることができるはずだが、アサド大統領はそのような行動に出ようとしておらず、可能ではないだろう」
だったら何の提案なのか、と思うが、要するに米政府としては、あくまでアサド政権がかたくなに米国の用意した逃げ道を拒んだので攻撃した、ということにしたいのだろうか。
このことについて、国務省報道官はケリー国務長官の上記の発言について解説している。
「(アサド大統領が化学兵器を引き渡すことは)不可能かつありそうにもないということを意味する修辞的な発言」
ますます何を目的とした発言か分からない。
さて、このケリー国務長官だが、アサド政権が化学兵器を使用したという証拠を本当に米国は入手しているのか、との質問については直接的な言及を避けている。
どうにもこの部分が怪しい。
しかしケリー国務長官は言う。
「2003年のイラク戦争の経験から、懸念が出ていることも理解できるとしたものの、行動を取らないことは、米国と同盟国にいずれ悪い結果をもたらすことになりかねない」
米国側は理屈が破綻しているように思える。とにかく軍事介入ありきの状態が続いているように思える。
一方、米CBSはアサド大統領にインタビューしており、アサド大統領は8月21日の化学兵器使用に関し、明確に否定している。
また、それでも米国が軍事介入すれば、シリアは報復するとも述べ、米国を牽制している。
さて、アサド政権を擁護しているロシアだが、同じく9日に、シリアが米国による軍事攻撃を回避する案として、シリアに対して化学兵器を国際管理下に置くことを要請した。
これに対し、シリアはロシアからの提案を歓迎する意向を示している。
この日、ロシアのラブロフ外相はシリアのムアレム外相とモスクワで会談したのだ。そこで化学兵器を国際管理下に置くことを提案したが、シリア側の反応については、
「迅速かつ前向きな回答を期待している」
と期待感を示し、
「シリアの化学兵器を国際管理下に置くことによって攻撃が回避できるのであれば、われわれは直ちにシリア政府と共に問題に取り組んでいく」
と、米国の軍事介入回避に積極的な姿勢を示している。
そしてラブロフ外相は、この提案はシリアの化学兵器を国際管理下に置くだけに留まらないと言う。つまり、その延長線上には、シリアに化学兵器を廃棄させ、そのままOPCW(化学兵器禁止機関)に加盟させることも考えているという。
ロシアは常に、アサド政権が存続することを前提に将来を語っている。
このようなロシアの考えに対して、シリアはどう反応しているか。
ロシアのムアレム外相は、ラブロフ外相との合同記者会見で語った。
「ロシアのイニシアティブを歓迎する」
とにかく、米国の軍事介入が回避できるということであれば、検討する必要はあるという反応を示したのだ。
さらに、米国の軍事介入を牽制する発言を加えた。
「今回の問題解決に向けた外交手段は尽きてない」
さて、以上のロシアの提案に対して、オバマ大統領は、
「まず懐疑的になる必要があると思う」
と釘は刺したものの、
「潜在的にプラスの展開だ」
と評価し、それでもこの提案の現実味については検討が必要だと述べている。
とは良いながらも、オバマ大統領は同日の9日に、6つのテレビ番組でインタビューに応じて、
「シリアに対する軍事攻撃を議会が認めるべきだ」
と、軍事介入への意欲は示し続けている。
それでも、もしもシリアがロシアの提案を受け入れて実行すれば、米国からの軍事攻撃は避けられるであろうとも語っている。
ただ、このロシアの提案とシリア側の歓迎姿勢に対して、
「現在受けている圧力を回避するための牛歩戦術はいらない」
と、その外交的努力が真剣に行われるかどうかはチェックしていなければならないとした。詰まり単なる時間稼ぎであれば、米国は騙されないぞ、ということだ。
さらに、米国の軍事攻撃はあくまで化学兵器を使用したことに対する限定的な制裁であり、内戦への軍事介入ではないことを強調している。
「アメリカ政府は限定的攻撃の形式でシリア政府に制裁措置をとる考えがあるが、アメリカをシリア内戦に参与させるようなことはせず、軍事行動をイラク戦争或いはアフガニスタン戦争のような戦争にはさせない」
ここで一応ついでに紹介しておくが、反日朝鮮人である潘基文国連事務総長も、ロシアの提案を歓迎する発言をしている。
「シリアの化学兵器を国際管理下に置くというロシアの提案を歓迎する。また安保理に対しシリアの化学兵器を安全に保存・焼却できるところに移転することを求めるよう提案したい」
さて、そうこうする内に翌日の10日には、シリアのムアレム外相は、ロシアの提案を受け入れることを表明した。
「前日、ラブロフ外相と非常に実りある協議ができた。ラブロフ外相はそのなかで化学兵器に関するイニシアティブを提示、夕方にはわれわれはロシアの提案に合意した」
これで、米国はシリアを軍事攻撃する根拠を失ったはずだ、としている。
ただ、どうしても軍事攻撃したい米国を後押しするフランスのファビウス外相は、アサド政権に化学兵器の国際管理を求める国連安保理決議案を提出すると発表した。
これは、違反すれば、即、武力による制裁措置を可能にする内容になっており、国連憲章第7章で定められた強制措置に基づくとしている。
さらに、首都ダマスカス近郊で多くの犠牲者が出た化学兵器の使用責任者の身柄をICC(国際刑事裁判所)に引き渡すようにも求める。
その上でファビウス外相は言う。
「シリアが義務に違反した場合、極めて重大な結果を招くことになる」
しかし、もし犯人がアサド政権でなければ、どうしたって身柄の引き渡しはできない。無理な話であることになる。
米仏は、どうしてもシリアを攻撃したいらしいが、ロシアはこれを阻止できるだろうか。
以下、シリア関係の記事です。
『シリアへの軍事介入にNATOは参加せず。しかし見せしめは必要だと』(2013/09/03)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373816054.html
『シリアへの軍事介入への米仏と露のせめぎ合い』(2013/09/03)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373811103.html
『シリア政府が化学兵器を使用した証拠はあるのか? 見切り発車の軍事介入が行われるのか』(2013/08/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/373401150.html
『米国によるシリア攻撃が始まるのか』(2013/08/28)
http://newsyomaneba.seesaa.net/
『シリアで毒ガス兵器により1300人以上死亡。しかし誰が使ったのか』(2013/08/22)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/372654267.html
『シリアでサリンを使ったのは反体制派だとロシアが報告』(2013/07/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/368795017.html
『米国がシリアの反体制派への武器供与拡大を決定』(2013/06/14)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/366304428.html
『シリアに対する日本政府の立ち位置』(2013/06/11)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/365988776.html
『シリア内戦を停止させる国際会議の開催は可能か』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/364050350.html
『シリアの内戦がレバンノンに飛び火する』(2013/05/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/
『シリア・ヒズボラ連合で攻勢をかけるアサド大統領の狙い』(2013/05/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/362493849.html
『国連総会がシリア国民連合を、政権移行の対話者として認める決議を行った』(2013/05/16)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/361570283.html
『イスラエルが内紛中のシリアを空爆する理由』(2013/05/05)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/359067477.html
『(続)シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/26)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357324613.html
『シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357023672.html
『シリアで化学兵器が使われたのか。お互いを非難する体制派と反体制派』(2013/03/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/348363101.html
『シリア反体制派が暫定政府に首相を選出したが…』(2013/03/19)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/347857251.html
『シリアの使ったガスは化学兵器か?態度を変えつつあるロシア。』(2012/12/25)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/309829131.html
『シリア、サリンを準備中か』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305190492.html
『ロシアとトルコ、経済では協力、対シリア外交では距離』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305180076.html
『シリアの砲撃に報復するトルコ。シリアは何故トルコ//砲撃したのか。』(2012/10/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/295414151.html
『シリアは化学兵器を使用するか』(2012/07/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/282860806.html
『シリアで200人規模の虐殺。アサド政権側か、反政府側か。』(2012/07/13)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/280748896.html
『シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる』(2012/06/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277587322.html
『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html
『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html
『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html
『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html
『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html
『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html
『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html
『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html
『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html
『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html
『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html