1989年の6月4日は天安門事件があった日だ。が、まず、話は現在の米国に飛ぶ。
3日、米下院外交委員会の小委員会では、天安門事件に関する公聴会が開かれた。これは8日に行われる米中首脳会談を狙い撃ちしたものとなる。
出席者らは、オバマ大統領に、中国の人権問題に厳しく対応することを求める声を上げた。
この委員会での証言者となったのは、当時の天安門事件の学生リーダーだった民主活動家の魏京生氏と在米活動家の柴玲氏らだった。
魏京生氏は言う。
「中国国民は以前、事件に対する“償い”を求めていたが、現在は事件の責任者を追及し、共産党が非を認めることを求めている」
そして、
「共産党政権は正統性を失っている」
と述べた。
柴玲氏も言う。
「(天安門事件は)多数の中国人にとって、依然癒えない心の傷だ」
これらの証言を受けて、出席議員らは、
「(オバマ大統領が米中首脳会談で)人権についてしっかり、明確な立場を取ることを望む」
と要請した。中国の民主化には外圧が必要だ、といことか。
しかし当の中国では、習近平体制になって、ますます言論統制が強化されているという。
それでも香港では、日本時間の4日未明、犠牲者を追悼する集会がひらかれ、ロウソクがともされた。
すると、早速中国ではネット上で「天安門」だけでなく、「ロウソク」も検索できなくされたという。
天安門では、警戒態勢が強化され、手荷物検査などが行われている。
このような状況を見て、天安門事件の遺族達は公開書簡を発表した。
「(習近平体制になって)政治改革への希望は薄れ、絶望感が襲ってくる」
さて、再び米国に戻ると、米国在住の民主活動家の唐柏橋氏がホワイトハウスのホームページに署名を求めるサイトを設置した。
ホワイトハウスのホームページでは、署名が10万人に達すれば、署名者の要請を米政府が受け、公式声明を発表するという仕組みになっているからだ。
唐柏橋氏はこのサイトで、中国共産党が民主化運動への迫害を停止し、投獄された運動家を釈放する声明を求めている。これは、「六四運動」のための声明であるとしている。
「六四」とは、1989年6月4日の天安門事件を示す。
天安門事件では天安門に集結した民主化を求める一般市民が、人民解放軍によって武力弾圧され、多数の死者(中国政府発表では319人だが)を出したという事件だ(若い人は知らないだろうから、念のため)。
つまり、人民解放軍というのは、中国国民の為の軍ではなく、共産党のための軍であることが証明されたようなものか。
唐柏橋氏も当時、逮捕されて3年間投獄された。そして1992年からは国外追放となった。
さて、再び中国に戻る。
中国では、遺族が政府に対して、当時の状況が明らかにされていないとして、真相究明を求めている。
しかし中国国内のメディアでは天安門事件に関するニュースは一切伝えられていないらしい。徹底した報道規制が敷かれているようだ。
既に共産党幹部の汚職や所得格差の拡大で暴動が起きかねない状況で、天安門事件など思い出されては大変だ、ということだろう。共産党の支配力に影響を与える可能性もある。
ここは徹底的に報道規制を敷かねばならないだろう。
しかし香港では、香港市民支援愛国民主運動連合会の李卓人主席が、追悼集会に15万人を参加させるべく活動している。これには習近平も神経をとがらせているはずだ。
李卓人主席は言う。
「私たちが抱く中国の夢は民主的な中国という夢だ。中国当局は人権や民主化の改革に何ら踏み込んでいない。習主席の中国の夢は私たちの夢とずれている」
明確な習近平指導部批判だろう。しかし本土での追悼集会は禁止されている。
北京は厳戒態勢とも言える。公安当局は事前に反体制活動家に対して命じた。
「外出せず、文章を発表せず、取材を受けるな」
そして主要大学での警戒を強化した。天安門広場の毛主席記念堂も公開中止にした。
反体制派も二分しているようだ。毛沢東を崇拝する左派と、民主や政治改革を求める右派だという。この両方を取り締まらなければならない。
しかも習近平指導部は矛盾している。腐敗撲滅を訴える一方、党幹部の資産公開を要求した人権派弁護士や民主活動家ら10人ほどが逮捕されたのだ。
もはや習近平指導部は民衆を恐れているのではないだろうか。
歴史学者の章立凡氏は言う。
「習主席らも本来は改革を行いたいと考えていたが、それを阻止する勢力が非常に強く、もはや改革という『手術』を行うには手遅れの段階にあるのだろう」
このような状況に、天安門事件の遺族グループである「天安門の母」は声明を発表した。
「(習氏への)希望は消え、絶望が近づいている」
さて、オバマ大統領は首脳会談で何を発言するだろうか。また、習近平指導部は、人民の不満を、どのように押さえつけるのか。
あるいは人民のガス抜きのために、またも反日運動を起こさせるのか。
中国の民主化は遠い。