5日、シリア国営メディアによれば、首都ダマスカス近郊で、イスラエル軍による攻撃があり、大規模な爆発があったとしている。
シリア国営テレビは、シリア軍のミサイル攻撃を受けたのは、ダマスカス北西ジャムラヤの軍研究所だという。
ただ、今のところこの攻撃に関するイスラエル政府からのコメントはない。
しかし、イスラエル空軍が2日にもシリアを空爆したことを考えれば、有りそうな話である。
西側情報筋の話によれば、この度の標的は、イラン製の短距離地対地ミサイルの「ファテフ110」だったという。このミサイルは、隣国レバノンのヒズボラ(後述するのでこの名を覚えておいてください)に運び込まれる予定だったらしい。
それ以前にもシリアは、アサド政権が化学兵器や最新鋭ミサイルを流出させることを防ぐためとして、シリア領内を空爆してきたからだ。1月末にも空爆は行われている。
その2日の空爆については、米政府がイスラエルによる空爆であることを明らかにしている。
理由はこれまでと同様で、シリアの持つ高度な武器や前述の様にイラン製の武器がテロリストに流出することを防ぐことが目的だとしている。
そのため、3日に中米を訪問中のオバマ大統領は記者会見で、イスラエルがシリアを空爆したことに対して直接的なコメントは避けながらも、イスラエルがシリアからテロリストに武器が流出する事を防ぐ権利があると、遠回しに擁護している。
このときの空爆も、どうやら高度ミサイルの運搬阻止だったようだ。
ただ、米国によれば、この空爆はレバノン上空から行われた可能性があるという。そうなると、これはイスラエルによる、レバノン領空侵犯となるが、これまでにもイスラエルは何度もレバノン領空を侵犯してきている。
さて、シリア政府が武器を提供し、イスラエルが恐れているというそのテロリストとは何かというと、既に明かしてしまったが、ずばりヒズボラ(ヒズブッラー、ヒズボッラーとも)のことだ。
実際、オバマ大統領は先の記者会見で具体的に名指ししている。
「最新兵器がヒズボラの手に渡らないよう、イスラエルが自衛するのは正当な行為だ」
ヒズボラはシリアのアサド政権を支援し、シリア内戦にも介入していると言われている。同時に、シリアはヒズボラに対し、化学兵器や最新鋭ミサイルを提供していると言われているのだ。
ではこのヒズボラとは何者か。何故、イスラエルが攻撃し、それを米国は擁護しているのか。
ヒズボラ(神の党)はレバノンに本拠を置く武装組織であり、政党でもある。イスラム教シーア派であり、組織の目標は「イスラム共和制をレバノンに建国すること」であるとしている。
しかしヒズボラは、一部の国からはテロ組織だと指定されている。その一部の国に米国とイスラエルが含まれている。(他にはエジプト、英国、オランダ、、バーレーン、豪州、カナダがある)
特にヒズボラは、「反欧米」主義を取り、「イスラエルの殲滅」を目標として掲げている。
そのため、イスラエルとしては、それに対すべくヒズボラを攻撃するのだ。また必然的に、ヒズボラに武器を提供しているシリア政府もイスラエルは攻撃対象とする。
なぜ、ヒズボラがイスラエルを目の敵にしているかというと、そもそもヒズボラは、イスラエル軍がレバノンに軍事作戦を展開したことに対抗すべく生まれた組織だからだ。ヒズボラの結成は1982年である。
このときのイスラエルは、南レバノンのテログループを攻撃することと、シュロモ・アルゴフ駐英国イスラエル大使への暗殺未遂事件への反撃として軍事攻撃をおこなった。
対するヒズボラは1985年に四つの目的を宣言する。
・イスラエル抹殺の準備段階としてイスラエルをレバノンから最終的に撤退させる
・レバノンからあらゆる帝国主義勢力を追放する
・キリスト教マロン派系の極右政党・民兵組織であるファランヘ党を「正義の支配」の下に置き、その犯罪行為を裁判にかける
・「完全な自由の下で、希望する統治体制」を選択する機会をレバノン国民に与える
四つめに「完全な自由の下で、希望する統治体制」と謳ってはいるが、これはイスラム支配が前提である。
またヒズボラを支援しているのはシリアだけではない。イランもまた、ヒズボラに武器の供与などをして支援している。イランは武器の供与だけでなく、ヒズボラの活動に対する指導までしているとされている。
一方、シリアも武器の供与だけでなく、後方補給拠点、訓練施設、要人の自宅などを提供している。
さらに、イランとシリアが共同でヒズボラを支援している実態もある。イラン製の武器は、ダマスカスを経由してレバノンのヒズボラに届けられているとされているからだ。
これらのことからも米国がヒズボラを攻撃するイスラエルを擁護する立場であることがわかる。
ちなみに同じイスラム国でも、スンニ派のサウジアラビアやヨルダン、そしてエジプトなどは、ヒズボラの活動を批判している。
これまでのヒズボラの活動を見てみよう。
1983年10月、ベイルートの米海兵隊兵舎で自爆テロ。
1984年9月、やはりベイルートの米大使館で自爆テロ。
1992年、アルゼンチンのイスラエル大使館攻撃。
2000年、レバノンから撤退したイスラエルをさらに攻撃。
上記以外にも米国やイスラエルの出先機関に攻撃をしている。
シリアは内紛に加えて、ヒズボラを支援することで、イスラエルの攻撃も受けている。
まだまだ多くの人間が死ぬだろう。
以下、シリア関係の記事です(新しい順です)。
『(続)シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/26)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357324613.html
『シリアでサリンが使用されたという情報は、米国を参戦させるための捏造か』(2013/04/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/357023672.html
『シリアで化学兵器が使われたのか。お互いを非難する体制派と反体制派』(2013/03/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/348363101.html
『シリア反体制派が暫定政府に首相を選出したが…』(2013/03/19)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/347857251.html
『シリアの使ったガスは化学兵器か?態度を変えつつあるロシア。』(2012/12/25)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/309829131.html
『シリア、サリンを準備中か』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305190492.html
『ロシアとトルコ、経済では協力、対シリア外交では距離』(2012/12/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/305180076.html
『シリアの砲撃に報復するトルコ。シリアは何故トルコを砲撃したのか。』(2012/10/04)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/295414151.html
『シリアは化学兵器を使用するか』(2012/07/24)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/282860806.html
『シリアで200人規模の虐殺。アサド政権側か、反政府側か。』(2012/07/13)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/280748896.html
『シリアは「戦争状態」にあると認めたアサド大統領に焦りが見られる』(2012/06/27)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/277587322.html
『シリア軍がトルコ軍戦闘機を撃墜。しかしNATOを敢えて刺激するだろうか。』(2012/06/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/276862619.html
『シリアのシャッビーハ(シャビハ)という狂犬の暴走』(2012/06/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/273939512.html
『撤退どころか越境し始めた。シリア軍の暴走が止まらない』(2012/04/10)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/263642669.html
『シリアに対し、一枚岩になれないアラブ連盟』(2012/04/01)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/261615315.html
『シリアのアサド政権を維持させたいロシアの思惑』(2012/02/06)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/250749829.html
『国際社会による軍事介入の可能性が高まるシリア政府の強硬姿勢』(2012/01/23)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/248074698.html
『シリアの自爆テロは、反体制派か、アサド政権の自作自演か』(2012/01/08)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/244957285.html
『シリアで任務についたアラブ連盟の監視団。しかしどうにも怪しい。』(2011/12/30)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/243414862.html
『シリアの報道は事実か?あまりに狂気を帯びた惨状が報じられている。』(2011/11/29)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/237704569.html
『リビア化するシリアの弾圧とアサド大統領の強硬姿勢』(2011/11/20)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/236176084.html
『シリアで何が起きているのか。シリア騒乱への経緯。』(2011/11/07)
http://newsyomaneba.seesaa.net/article/233918198.html